1945年6月8日生まれ、山口県出身。1972年に小林佐智子と共に「疾走プロダクション」を設立し、脳性麻痺の障害者自立運動家横塚晃一ら神奈川青い芝の会のメンバーを描いた『さようならCP』を監督。その後も、『極私的エロス 恋歌1974』(74年)、『ゆきゆきて、神軍』(87年)など問題作を世に送り出す。『ゆきゆきて、神軍』は 日本映画監督協会新人賞をはじめ、国内外で数々の賞を受賞。2019年には新レーベル「風狂映画舎」を立ち上げ、『れいわ一揆』がレーベル第一弾作品となる。
4月17日に公開が予定されていたドキュメンタリー映画『れいわ一揆』。2019年の参議院選挙で注目を集めた「れいわ新選組」の候補者の一人安冨歩を中心に、党首の山本太郎、さらにはその他の候補者たちの選挙活動を追った本作のメガホンをとったのは映像作家・原一男だ。1987年に公開された代表作、『ゆきゆきて、神軍』はベルリン国際映画祭でカリガリ映画賞を受賞、渋谷ユーロスペースでは3ヵ月連続立ち見の大ヒットとなるなど世界中にセンセーショナルな衝撃を与えた
日本の“今”をいち早く世に問う作品というコンセプトで昨年立ち上げた「風狂映画舎」第一弾作品として注目を集めた本作だが、残念ながら映画は、新型コロナウイルス感染拡大により公開が延期された。原監督は「心にポッカリと穴があいたような気持ち」と素直な胸の内を吐露したが、一方で監督ならではの考えで現状を説いてくれた。
監督:まず「風狂映画舎」がどうやって出来たかをお話させていただきます。『れいわ一揆』の撮影は自前でやっていたこともあり、撮影途中でこれ以上お金を出すことは難しいと思っていたので、どこかにお願いしようという話になって、ドキュメンタリー動画をやっていた、ドワンゴ(ニコニコ動画)さんに話を持っていったのですが、あまり芳しい回答を得られなかったんです。
でも真摯に話を聞いていただき、参議院選挙の投票日の夜12時過ぎからなら自由に放送できるという説明があったので、そこで7時間ぐらいの動画を製作して配信したんです。そうしたら予想以上の反響がありました。
撮影が終わったあと、プロデューサーの島野千尋くんが、この作品を東京国際映画祭に出品したいという意志を示しました。ただ東京国際映画祭の場合、海外用に映画の字幕をつけなければならないなど、お金が掛かるんで悩んでいた時に、配信の評判を聞いたある制作会社がお金を出してくれるという話にたどりつきました。そのとき、これまで僕らは個人的にやっていたのですが、会社とお付き合いするということで「こちらも会社を作るか」という話になってできたのが「風狂映画舎」です。
もともとあった「疾走プロダクション」は一つの題材を10年以上かけて撮るというコンセプトだったので「風狂映画舎」は、そのときの時代の流れをいち早くキャッチして“今”を切り取ろうというポリシーにしました。
監督:「原一男のネットde「CINEMA塾」」という番組があるのですが、そこに安冨さんに出演していただいたんです。そのとき彼女の女性装の話と、東松山の市長選挙に立候補したときの話を中心に聞いたのですが、馬を使った選挙活動の話がとても面白くて「もう一度選挙に出てみませんか? それを映画にしたい」という話をしたんです。最初安冨さんは「選挙には出ません」と話していたのですが、のちに「映画を撮ってもらえるのならば、立候補してみようと思う」とメールをいただき、話が進んでいったのです。
監督:安冨さんに挨拶するところからカメラを回していますが、党の代表である山本太郎さんにも仁義を切る必要があると思い連絡をしました。そのとき山本さんから「安冨さんが主人公なんですよね?」と言われ、咄嗟に「そうじゃないです。これは群像劇です」と答えてしまった。あらかじめ考えていた発言ではなく出てしまった言葉です。でもいままで映画を撮ってきた経験から、潜在的に安冨さんだけでは映画として成り立たないと感じていたからこその発言だったと思います。安冨さん自身は「俺が主人公じゃないの?」という思いがあったのかもしれませんが、あのときの山本さんとのやり取りで「れいわ新選組」の立候補者10人を撮ると決まった感じですね。
監督:そのあたりはどちらもごちゃまぜです。選挙という題材はもともと面白いと思っていましたが、漠然と選挙を撮っても映画にならない。そこに映すだけの魅力的な人物が必要なんです。安冨さんという面白い人が目の前に登場したことで、企画が具現化していったという感じです。
監督:映画って観念的に「作らなければいけない」と思ってもできない。好奇心を刺激されて、応援したいと肯定できる人がいてこそなんです。そう思えるような生き方をしている人が好きですね。
監督:やっと公開の劇場が決まったと思って喜んでいたので、正直延期になってポッカリ穴があいたような喪失感で、いまはとても辛い時期なのですが、ただ映画というのは順調にトントン拍子で進むことの方が少ない。今回は日本だけではなく、全世界的にひどい状況になっています。そのなかで、映画の命が失われることなく生き残れるのか、それが試されているのかなと感じます。
もう一つ、コロナというのはウイルスであり、人間の範囲が及ぶものではないのですが、どこか人間が作り上げた文化のなかで、犯してはいけないものを犯してしまった警鐘としていまの時期に出現したのかなという見方もしています。ウイルスの原因を作ったのは人間の奢りなのではないかという気がするんです。その問いかけをしないと、本当に解決していかない問題なのかなと思っています。感情的にならず知的に戦っていかないと光明が見えないのではと感じています。
監督:それはあります。こうした状況のなかで人類はどうして生きていけばいいのか。人間というのは戦争の歴史を見ればわかりますが、何度も同じことを繰り返してしまう。そういった危機感や、超絶望感のなか、我々はどう生きていったらいいのか……非常に考えさせられるところはあります。
(text:磯部正和)
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