黒人初のオスカー俳優シドニー・ポワチエ、『ゴッドファーザー』のジェームズ・カーンらが永遠の別れ

2020年から世界を覆ったコロナ禍がようやく収束し始めた2022年。明るい兆しが見え始めるなか、惜しまれながら多くの映画人たちがこの世を去った。その偉大な功績を紹介しつつ、今年亡くなった俳優たちを偲ぶ。

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Sidney Poitier

AppleTV+で配信中のドキュメンタリー『シドニー』

シドニー・ポワチエ
俳優。黒人で初のオスカー男優賞受賞
1月7日/享年94歳
2022年を迎えて間もなく、アフリカ系として初のアカデミー主演男優賞を受賞し、ハリウッドに新しい風を吹かせた先駆者である名優、シドニー・ポワチエが亡くなった。1927年に生まれ、バハマで育ったポワチエは10代で渡米し、1946年にブロードウェイの舞台でデビューした。1955年に映画『暴力教室』で一躍注目を浴び、『手錠のままの脱獄』(58)で黒人俳優として初めてアカデミー主演男優賞候補となり、63年の主演作『野のユリ』でオスカーを受賞する。その後もアカデミー作品賞受賞作『夜の大捜査線』(67)や同賞候補作の『招かれざる客』(67)では白人女性である婚約者と彼女の実家に挨拶に行く男性を演じた。品行方正な黒人男性像は白人の理想という批判も受けつつ、当時の社会に人種差別の問題提起を続けた。70年代以降は西部劇『ブラック・ライダー』をはじめ、監督としても活躍した。デンゼル。ワシントンをはじめ、後進の黒人俳優たちが慕うすパイオニアの生涯に迫るドキュメンタリー『シドニー』はAppleTV+で配信中だ。

ギャスパー・ウリエル
37歳の若き死
1月19日/享年37歳
1月18日に休暇先のサヴォワのスキー・リゾートで、他のスキーヤーと衝突して負傷、翌日に37歳の若さで亡くなったのはフランスの俳優、ギャスパー・ウリエルだ。10代から映画で活躍し、『ロング・エンゲージメント』(04)でセザール賞有望若手男優賞を受賞した。英語が堪能で、2007年には『ハンニバル・ライジング』で若き日のハンニバル・レクターを演じ、2010年にはマーティン・スコセッシが監督を務めたシャネルのフレグランス「BLUE DE CHANEL」のCMに出演。イヴ・サン=ローランを演じた『SAINT LAURENT/サンローラン』(14)でリュミエール賞主演男優賞、グザヴィエ・ドラン監督の『たかが世界の終わり』(16)でセザール賞主演男優賞を受賞している。そして2022年にDisney+で配信スタートした『ムーンナイト』にアントン・モガート/ミッドナイトマン役で出演。世界での活躍が期待された矢先の無念の最期となった。

[動画]ギャスパー・ウリエル&ブノワ・ジャコー監督インタビュー映像

ハーディ・クリューガー
ドイツに生まれ、自らの体験から極右思想への反対を表明し続けた
『シベールの日曜日』
1月19日/享年93歳
1962年度のアカデミー外国語映画賞を受賞したフランス映画『シベールの日曜日』で記憶喪失の元兵士を演じたドイツの俳優、ハーディ・クリューガーは1月19日にカリフォルニア州の自宅で急死した。国際的に活躍し、ハワード・ホークス監督の『ハタリ!』(62)やスタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』(75)、リチャード・アッテンボロー監督の『遠すぎた橋』(77)などに出演した。1928年にドイツのベルリンで生まれたクリューガーはヒットラーを崇拝して育ち、1944年にナチスのプロパガンダ映画でデビューした。同時期にナチスの親衛隊の一員として戦闘に参加したが、捕虜となったアメリカ兵の殺害命令を拒否してナチズムと決別した。戦後に俳優業を再開してからは、自らの体験を引きながら、極右思想への反対を繰り返し語っていた。

モニカ・ヴィッティ
ミケランジェロ・アントニオーニ監督のミューズ
2月2日/享年90歳
イタリアの名匠、ミケランジェロ・アントニオーニ監督のミューズだった女優のモニカ・ヴィッティは2月2日、90歳で亡くなった。
1960年の『情事』をはじめ、『夜』(61)、『太陽はひとりぼっち』(62)の「愛の不毛3部作」や『赤い砂漠』(64)と、当時公私共にパートナーだったアントニオーニ監督作でヒロインを演じ続けた。
アントニオーニ作品以外でも、ロジェ・ヴァディムがフランソワーズ・サガンの戯曲を映画化した『スエーデンの城』(62)ジョゼフ・ロージー監督、テレンス・スタンプ共演の『唇からナイフ』(66)、ルイス・ブニュエルとジャン=クロード・カリエール共同監督の『自由の幻想』(74)などに出演し、1980年代は脚本執筆や監督業にも進出したが、2000年代以降は認知症の闘病生活を続けていた。

左からマリア・ベロ、ウィリアム・ハート、クリステン・スチュワート/20010年『イエロー・ハンカチーフ』LAプレミアにて

ウィリアム・ハート
『蜘蛛女のキス』でオスカー主演男優賞ほか3年連続でオスカー候補に
3月13日/享年71歳
『蜘蛛女のキス』でアカデミー主演男優賞を受賞したウィリアム・ハートは、その翌年に『愛は静けさの中で』で、さらに翌年には『ブロードキャスト・ニュース』で同賞にノミネートされ、3年連続でオスカー候補になった名優だ。端正な役が多いが、『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』(90)でキアヌ・リーヴスと演じた、全く使い物にならない殺し屋役のコミカルな演技も印象的。他に、日本をはじめ世界をロケしたヴィム・ヴェンダース監督の『夢の涯てまでも』(91)に主演。ハリウッド大作からインディーズ作品まで幅広く出演し、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。2016年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』からマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に参加し、サディアス・“サンダーボルト”・ロスを演じた。3月13日に前立腺がんの合併症により、オレゴン州の自宅で亡くなった。遺作はMCUの『ブラック・ウィドウ』(21)。

レイ・リオッタ

レイ・リオッタ
ギャングやサイコな役を多く演じたベテラン俳優
5月26日/享年67歳
マーティン・スコセッシ監督の『グッド・フェローズ』(90)などで知られるレイ・リオッタは、新作『Dangerous Waters(原題)』撮影のために滞在していたドミニカ共和国のホテルで就寝中に亡くなった。鋭い眼光がトレードマークで、アクションやサスペンス作を中心にギャングやサイコな役が多かったが、伝説的な野球選手シューレス・ジョー・ジャクソンを演じた『フィールド・オブ・ドリームス』(89)やウーピー・ゴールドバーグと共演した『コリーナ、コリーナ』(94)などで見せた優しい表情も印象的。近年はアダム・ドライヴァーとスカーレット・ヨハンソン主演の『マリッジ・ストーリー』(19)やタロン・エジャートン主演のApple TV+のシリーズ『ブラック・バード』で主人公の父親を演じた。

ジャン=ルイ・トランティニャン
がん治療を一切拒否、南仏の自宅で家族に見守られながら永遠の眠りに
6月17日/享年91歳
『男と女』(66)やカンヌ国際映画祭男優賞を受賞した『Z』(69)、ベルナルド・ベルトルッチやクロード・シャブロル、フランソワ・トリュフォー、クシシュトフ・キェシェロフスキなどヨーロッパの名匠たちの作品で活躍し、81歳で主演した『愛 アムール』(2012)がカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したジャン・ルイ・トランティニャンは、2017年に前立腺がんと診断されたが、一切の治療を受けない決断をしたと公表した。その後も『男と女 人生最良の日々』(19)に主演したが、その後に視力も衰え、歩行も困難な状態となっていた。2021年3月には第46回セザール賞授賞式にビデオ出演し、最優秀若手男優賞および女優賞のプレゼンターとして、結果発表の前に10人の候補者に向けてジョルジュ・ブラッサンスの歌の歌詞を暗誦したトランティニャン。南フランスの自宅で家族に見守られながら息を引き取ったという。
2番目の妻で映画監督のナディーヌ・トランティニャンとの娘マリー・トランティニャン(2003年に死去)、孫のロマン・コリンカとジュール・ベンシェトリも俳優。

シャロン・ストーン

ジェームズ・カーン
『ゴッドファーザー』ソニー役でアカデミー賞ノミネート
7月6日/享年82歳
フランシス・フォード・オッポラ監督の『ゴッドファーザー』で長男ソニーを演じ、アカデミー賞助演男優賞候補になったジェームズ・カーンはサスペンス、ドラマ、コメディと幅広い作品で活躍した。サム・ペキンパー監督の『キラー・エリート』(75)、マイケル・マン監督の『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(81)、キャシー・ベイツがオスカーに輝いた『ミザリー』(90)、ジェームズ・グレイ監督の『裏切り者』(2000)、ラース・フォン・トリアー監督の『ドッグヴィル』(03)などに出演。大学のクラスメイトだったコッポラ監督の作品には『雨のなかの女』(69)と『友よ、風に抱かれて』(87)にも出演。昨年はエレン・バースティンと共演した『Queen Bees(原題)』が公開された。SNSも活発に更新し、懐かしい写真などをアップしていたが、Twitterのアカウトが7月6日に訃報を発表。虚血性心疾患のため、ロサンゼルスの病院で亡くなった。公開待機中のピアース・ブロスナン主演作『Fast Charlie(原題)』が遺作となる。

アン・ヘッシュ

アン・ヘッシュ
交通事故で、53歳の早すぎる最期
8月11日/53歳
『フェイク』(97)のジョニー・デップ演じる主人公の妻役やハリソン・フォードの相手役を務めた『6デイズ/7ナイツ』(98)などで知られるアン・ヘッシュは8月5日にロサンゼルスでクルを運転中に交通事故を起こして脳死状態となったが、臓器提供を希望していたため、提供先が見つかった後、14日に延命措置を停止、53歳の早すぎる最期を迎えた。私生活ではバイセクシュアルであることを公表し、人気TV司会者のエレン・デジェネレスと交際していたが、破局後に結婚した男性との間に一児、離婚後に交際した男性との間にも一児をもうけた。近年は『あなたの旅立ち、綴ります』(17)や『ベスト・オブ・エネミーズ〜価値ある闘い』(19)や、ドラマ『シカゴ P.D.』などに出演した。

ルイーズ・フレッチャー
『カッコーの巣の上で』でアカデミー主演女優賞受賞
9月23日/享年88歳
『カッコーの巣の上で』でアカデミー主演女優賞受賞したルイーズ・フレッチャーは9月23日にフランスの自宅で亡くなった。
『カッコーの巣の上で』ではジャック・ニコルソンが演じる主人公をはじめ、精神病院の入院患者たちを厳しく管理する冷徹な看護婦長を演じたが、オスカーの受賞スピーチでは温厚な素顔で素直に喜びを表現し、聴覚障害の両親に向けて手話で語りかけた。オスカー史上屈指の名スピーチを残した名優はその後、ロバート・アルトマン監督の『ザ・プレイヤー』(92)や『クルーエル・インテンションズ』(99)などに出演。Netflixのシリーズ『Girlboss ガールボス』(17)が遺作となった。

ジェシカおばさんの事件簿

アンジェラ・ランズベリー
映像と舞台で活躍、代表作は『ジェシカおばさんの事件簿』
10月11日/享年96歳
TVシリーズ『ジェシカおばさんの事件簿』の主演で知られるアンジェラ・ランズベリーは最晩年まで現役で、遺作となった『ナイブズ・アウト:グラスオニオン』(22)は12月23日よりNetflixで配信中だ。
1944年、映画デビュー作の『ガス燈』で10代にしてアカデミー助演女優賞候補となった。映像と演劇の双方で活躍し、ミュージカルやストレートプレイでトニー賞を(名誉賞を含め)6度受賞、アカデミー賞名誉賞も贈られている。
1984年から始まった「ジェシカおばさんの事件簿」が1996年に終了すると、舞台出演も再開、80代以降もブロードウェイの舞台に出演、2015年にローレンス・オリヴィエ賞助演女優賞を受賞した。2019年には舞台「真面目が肝心」の一夜限りのブロードウェイ公演に出演したのが最後の舞台出演となった。

ロビー・コルトレーン
『ハリー・ポッター』シリーズのハグリッド役で知られる
10月14日/享年72歳
『ハリー・ポッター』シリーズのハグリッド役で知られるロビー・コルトレーンは90年代にミステリー・ドラマ『心理探偵フィッツ』(93〜95)の主人公エディ・フィッツジェラルド役や映画『007』シリーズのマフィア、ヴァレンティン・ズコフスキー役も務めた性格俳優。晩年は変形性関節症に苦しみ、2019年から車椅子生活を送っていた。今年配信された『ハリー・ポッター20周年記念:リターン・トゥ・ホグワース』ではダニエル・ラドクリフやエマ・ワトソンら主要キャストたちとホグワーツ同窓会に参加していたが、これが最後の出演作品となった。

アイリーン・キャラ
『フラッシュダンス』主題歌が大ヒット、不遇な時期も
11月25日/享年63歳
1980年に出演した映画『フェイム』で歌った主題歌が大ヒットしてアカデミー歌曲賞を受賞、1983年にも映画『フラッシュダンス』の主題歌で、作者の1人としてクレジットされた「フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング」で再び同賞を受賞したアイリーン・キャラ。俳優としてはジョエル・シューマカー監督の『D.C.キャブ』(83)、クリント・イーストウッドと共演の『シティ・ヒート』(84)などに出演し、アニメの声優としても活動した。『フェイム』、『フラッシュダンス』の主題歌ではグラミー賞にも輝き、順調なスタートだったが、契約内容をめぐって所属していたレコード会社との法廷闘争が長引き、活動がままならない不遇な時期が続いた。
音楽活動を中心に据えつつ、映画やミュージカルにも出演し、近年はリアリティ番組「Gone Country(原題)」シーズン2に出演した。11月25日にフロリダ州の自宅で亡くなったが、12月17日現在死因は明らかになっていない。