中谷美紀、竹内結子、柴咲コウをはじめ、そうそうたるスターを抱える大手芸能事務所スターダストプロモーション。その1部署としてスタートし、2005年2月に株式会社として独立したスターダストピクチャーズ(SDP)。これまでに数多くの映画に製作出資してきた同社が、今年2月に公開された松雪泰子主演の『余命』で、初めて自社配給に挑戦した。
ここ数年、芸能事務所が映画に製作出資するケースは増加している。その先駆けでもあり、業界内で常に動向が注目されるスターダストだが、配給にまで乗り出した狙いはどこにあるのか? 『余命』のDVDリリース(6月26日)を目前に控え、同作のプロデューサーでもある岩倉達哉氏に、その狙いと今後の展開を伺った。
製作出資のきっかけはアジア進出
スターダストが最初に映画に製作出資したのは、1999年の香港映画『もういちど逢いたくて〜星月童話』(監督:ダニエル・リー、出演:常盤貴子)だ。芸能事務所の出資というと、ここ数年のイメージがあるが、同社は今を遡ること10年も前に、すでに出資をはじめていた。翌2000年には『ファイターズ・ブルース』(監督:ダニエル・リー、出演:常盤貴子)などにも出資。こうした背景にあったのがアジア進出だと岩倉氏は明かす。
「アジアでも映画製作が盛んな都市・香港からはじめたのは、アジア展開を考えていたから」
その後、同社は『世界の中心で、愛をさけぶ』(監督:行定勲、出演:柴咲コウ)、『いま、会いにゆきます』(監督:土井裕泰、出演:竹内結子)など、邦画の大ヒット作にも次々と出資。2005年にはついに、SDPが設立される。
「邦画の盛り上がりとともに出資する映画の数が増えました。出資の判断基準として、弊社所属の役者が出演していることのみならず、いい作品であることも大事にしてきました。その意味では、出資作がヒットしたことで、世間がいいと思ってくださる作品と、弊社がいいと思う作品との間にズレがなかったことも自信につながりました」
そうした中、今年2月公開の『余命』で、同社初の配給にも乗り出した。理由の1つが、作品に対して責任を負う姿勢だ。
「映画は非常に多くの人が関わって製作されるものです。それだけに意見がまとまらず、実現しない企画も多い。また映画は、企画者やプロデューサーの個人的な思いが大切で、必然的に企画を立ち上げた人や会社が中心にまわっていくものなんです。だからこそ、自社企画で映画を作ろうと思ったときに、お客さんに届けるまでを自分たちでまかなえる体制を築くことが、企画を提案する者の1つの責任だと考えたわけです」
こうして作られた『余命』は、初配給作品ながら、全国152スクリーンでの公開となった。これは、大手映画会社と比べても遜色のない規模だ。また宣伝でも、初めてとは思えないパワフルさを発揮する。とりわけ印象的なのが地方での展開だ。この映画の製作委員会には、電通などのほか、ローカルテレビ局15局も参加しているのだが、その1つひとつと連携しながらSDPは、全国でキャンペーンを展開。作品の認知度アップにつなげていった。
年間6本の自社配給が目標
実は『余命』で自社配給に挑戦した背景には、布石となった作品がある。それが、2006年に公開され、興収10億円のスマッシュヒットとなった『タイヨウのうた』だ。
「『タイヨウのうた』は松竹さんと共同で、はじめて幹事会社をやらせていただいた作品なんです。『タイヨウのうた』で、どう宣伝を展開しようかと考えた経験が、『余命』を配給することにつながったのだと思います」
実際に配給してみての手応えを聞くと、「いろいろなことに挑戦して、反応があったものとないものがあった。そういう意味では勉強もさせてもらったし、その勉強は次に生かせると思う」と岩倉氏。中でも強く感じたのは、「この映画と最後まで添い遂げたいという思いを、スタッフ1人ひとりが強く感じないと、全国のお客さんには届かない」ということ。「映画は決してシステマティックに作れるものではありません。だからこそ、思いの強さが大事なんです」。
SDPとしては現在も数本の映画が準備中だ。真っ先に公開となるのが、本格的にパラグライダーを扱った映画としては本邦初となる『RISE UP!』。主演は同社所属の林遣都と山下リオで、石川県で撮影した縁で、8月22日より同県での先行上映が決定。その後、全国順次公開予定だ。
また、現在大ヒット上映中の『ROOKIES −卒業−』のように、ドラマから映画へという流れでヒットを狙えそうなのが、市原隼人主演の『猿ロック』。これは、週刊ヤングマガジンで連載中の同名コミックが原作で、7月23日より読売テレビ、日本テレビ系列で放送が開始。「映画化しようというプランも浮上しています」と岩倉氏は明かす。市原というスターが主役で、テレビドラマとの連動もあることから、同社初の大ヒットにも期待がかかる。
ほかにも、『余命』の脚本を担当した河原れんの処女小説を映画化した『瞬(仮)』をはじめ、数本が待機中。「目標は年間6本程度を自社配給すること」と話す岩倉氏は、今後も配給事業をより強化していく構えだ。
加えて、さらなるアジア展開も模索している。
「冒頭にもお話ししたように、うちは邦画というよりもアジア映画といった意識で取り組んでいます。今年4月に台湾に事務所を開いたこともあって、『余命』に関しても台湾で自社配給できないかと、現在画策している最中です。実は『タイヨウのうた』で弊社は海外セールスを担当し、台湾、香港、韓国、タイ、シンガポールに販売してきました。そのご縁で、現地の映画会社やテレビ局ともつながりができ、台湾などからテレビドラマを買い付けたりもしているんです。そうしたネットワークを生かして、今後も、台湾をはじめ、アジア各国で配給やDVDセールスを展開していきたいと考えています」
(テキスト:安部偲)
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