7月12日時点で興収76億円と、今年2位の『レッドクリフPart II ─未来への最終決戦─』(55.5億円)を大きく上回る成績を上げ、トップを独走中の『ROOKIES −卒業−(以下、ROOKIES)』。この映画を世に送り出したのがTBSの映画事業部だ。
TBS映画が絶好調なのは、何も『ROOKIES』にはじまったことではない。昨年、興収77.5億円で実写映画NO.1ヒットとなった『花より男子ファイナル(以下、花男)』を皮切りに、次々と大ヒット作を連発。その勢いは一向に衰えることなく、『ROOKIES』まで続いてきた。
そんなTBS映画の絶好調の秘密を、同社映画事業部長の濱名一哉氏に聞いた。
10本で236億円、大ヒットを次々生みだすTBS映画
まずは『ROOKIES』の話から聞いていこう。今なお大ヒット上映中の『ROOKIES』は、今週中にも『花男』を抜き、2004年にTBS映画史上NO.1ヒットを記録した『世界の中心で、愛をさけぶ』の興収85億円も視野にとらえている。最終興収100億円超えも、決して夢ではない。
「驚くのは、『花男』が6月28日公開と、夏休み目前の封切りだったのに対し、『ROOKIES』はそれよりも1か月も前の封切りだったこと。その1か月って、特に祭日があるわけでもない。それで、これだけの数字が上げられたことには、本当にビックリしています。
ただ、この先の数字に関しては、まったく楽観はできないですね。というのも、興行のスタイルが、ここ数年でシネコンを中心とした形へと大きく変貌してきたから。昔は配給会社が劇場をブッキングしてくれれば、ある程度の上映回数と期間が確保された。それが今は、シネコン側が映画を選び、上映回数も選ぶ時代になった。1日に何回上映してくれるかは、大手の映画配給会社といえども詳細を把握できない。なので、場合によっては、はじまったばかりで、それなりの数字を残している作品でも、1日に1〜2回しか上映されないケースも出てくる」
それは『ROOKIES』とて、例外ではない。『ごくせん THE MOVIE』や『アマルフィ 女神の報酬』『ハリー・ポッターと謎のプリンス』といった話題作が、夏休みを期に、次々と公開になるからだ。
「当然、新作は勢いがあるので、たとえ『ROOKIES』がまだ元気いっぱいでも、上映回数が減る可能性もある。そこが最大の試練ですね。せっかく夏休みに入るので、何とか踏ん張ってもらい、スクリーン数と上映回数を確保できれば、興収100億円も夢ではない。だからこの時期、普通は、次にどんな中押しの宣伝をするかに目がいくのでしょうが、僕らは今、(配給元の)東宝さんにどう頑張ってもらうかに目がいってしまう(笑)」
そんなTBS映画の強みは、冒頭にも記したとおり『花男』や『ROOKIES』だけがヒット作ではないこと。昨年秋に公開された『おくりびと』は、アカデミー賞外国語映画賞受賞効果もあって、興収60億円を突破したし、中居正広主演の『私は貝になりたい』も興収24億円を記録した。その勢いは今年に入っても変わらず、『感染列島』が19億円、『ジェネラル・ルージュの凱旋』が9億円、『クローズZERO II』と『余命1ヶ月の花嫁』は、共に30億円を突破した。
「会社会計年度でいくと、去年4月から今年3月までの1年間で10本を製作し、全部で興収226億円。これは大変な成績なんです。過去には、『世界の中心で、愛をさけぶ』と『いま、会いにゆきます』(48億円)のように、大ヒット作を連発した年もありますが、昨年度はそれ以上。これを、『花男』から『ROOKIES』までという、もっともヒット作が連続した1年間で計算すると、10本で300億円超えになります。まあ、『さすがにそれは、都合良すぎますよ』と、うちのスタッフからたしなめられますが(笑)」
好調ぶりを支えているのが、これまでの積み重ねだ。「昨日、今日、突然、TBS映画がヒットを生み出してきたわけではない」。そう話す濱名氏は、「2001年に『陰陽師』が30億円を超えた頃から、大ヒット作をコンスタントに生み出してきた」と胸を張る。その中核にあるのが「企画優先主義」だ。
「大事なのはポテンシャルのある企画を、どう育て、開花させていくか。どんなベストセラー小説でも、それに見合わないキャスティングやクリエイティブが組み合わさっては、観客は、単に話題性にのっただけの安易な企画だと思ってしまう」
ベストセラー小説の映画化など、題材が強い作品なら、キャストやクリエイティブに意外性のあるものを混ぜる。逆に、オリジナル作品など、知名度が弱い作品であれば、話題作を手がける時以上に強いキャストやスタッフを揃える必要がある。
「そういう組み合わせをパッケージと呼んでいるのですが、ここはとても大事なところです。野球で言えば4番バッターばかりを揃えても勝てないのと同じで、単にオールスターキャストを揃えても観客には響かない。そこに何か新しい要素を加え、こんなすごいキャストと、こんなすごいアイデアを組み合わせるんだと思わせる必要がある。観客のイマジネーションを刺激するような化学反応を起こしていかないと、企画がパターン化し、面白味のないものになってしまうんです」
映画化のポイントは、視聴率よりもDVDセールス
何を映画化すれば当たるかは、多くの映画製作者にとっても、頭を悩ませるところだ。それは、今やTBS映画の大きな柱の1つとなったテレビドラマの映画化でも変わりない。
「単に面白い、視聴率が良かったくらいでは、映画化しても成功しない。大事なのは、そのドラマにのめり込んでくれるようなファンを大勢抱えられること。視聴率では計れないこうした要素こそが、映画化には不可欠なんです。『ROOKIES』の場合も、視聴者と一緒になって作品が育ってきたようなところがあって、だからこそ、劇場に足を運ぶと、サポーターの集まりのような雰囲気が漂っている。きっと、『ROOKIES』のメンバーを自分たちが支えているという意識があるのでしょう。そうしたファンの方々の熱さは、DVDのセールス数からも伝わってくる。10万セットを超えるという、NHKも含めた地上波テレビの連ドラ史上、最高の売り上げを記録した。それは、お金を払ってでも、もう1度、出演者たちに会いたいという気持ちを、多くの方が持ってくれていたからだと思うんです」
実は濱名氏は、テレビドラマの映画化で、過去に手痛い失敗を経験している。
「10年ほど前に『サラリーマン金太郎』(99年)という高視聴率ドラマを映画化したんですが、見事にコケまして。隣じゃ『踊る大捜査線』が大ヒットしている。『踊る〜』より平均視聴率が良かったのに、なぜコケるんだと会社に怒られ、反省文を書かされました(笑)。そこで目が覚め、いろいろと分析してみると、『サラ金』のターゲットが若者ではなく、ビデオもあまり売れていなかったことがわかった。つまり、視聴率を支えていたのは、F1ではなく、F2、F3といった中高年の女性層で、彼女たちはビデオも買わないし、お金を払ってまで映画館に足を運んでくれるような方々ではなかったんです」
これが反省材料となり、誕生したのが『木更津キャッツアイ』シリーズだ。小規模公開ながら、『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』(03年)は興収15億円、『木更津キャッツアイ ワールドシリーズ』(06年)は18億円を記録した。
「決して視聴率は高くなかったが、ビデオは売れていたので映画化したらヒットした。それで、ここに方程式があるのだろうと考えたんです。ただ、その後、この方程式にあてはまるドラマがなかなか生まれてこなかった。そんなときに登場したのが『花男』だった」
同じく、テレビが発信源となった作品には『余命1ヶ月の花嫁』もある。5月9日に公開されたこの映画も、予想を上回る大ヒットを記録。だが、濱名氏は、当初、この企画に懐疑的だったと明かす。
「2年前に『Life 天国で君に逢えたら』(07年)という映画を作ったんです。これは、『余命1ヶ月の花嫁』のヒロインの長島千恵さんと同じように、ガンで亡くなられたプロのサーファーで、小説も書かれていた方の物語。弊社の平野というプロデューサーが『ぜひ、映画化したい』と言ってきたんですが、当初、僕は大反対しました。というのも、ドキュメンタリー番組をフジテレビさんが放映していて、とても感動的でしたが、そこで完結していると思ったから。完結したものを、あえて俳優を使って映画にすることに疑問を感じて。でも、『どうしても』と彼が言うのでゴーサインを出したら、とてもいい作品に仕上がり、興収17億円の大ヒットになった」
その同じプロデューサーが、「今度はこれを」と情熱をもって押し進めたのが『余命1ヶ月の花嫁』だ。同じように「最初は反対した」という濱名氏だが、若い女性の命をも奪いかねない乳がん撲滅を祈って、自らドキュメンタリーの被写体になった長島千恵さんの思いを継承したいという熱意に打たれ、映画化を許可。ふたを開けてみるとこちらは、『Life〜』を上回る、興収30億円超えの大ヒットにつながった。
上映作品すべてが大ヒットと言っても過言ではないくらいに絶好調なTBS映画は、今後も9月12日公開の岸谷五朗初監督作『キラー・ヴァージンロード』などが待機中だ。さらに、来年4月以降も充実のラインナップを準備中で、「まだ1本も発表していませんが、どんどん続きます」と自信をのぞかせる。
また今は、「隔週に1回、ドラマの責任者たちと映画事業の責任者たちで総合ミーティングを開いている」と、第2、第3の『花男』『ROOKIES』の開発にも余念がない。その『ROOKIES』は、現在も絶賛公開中。今回、濱名氏に話を伺ったのは6月後半と、夏休みに入るやや手前。その際に「このまま興収を伸ばすためにも、早く夏休みが来てほしいですね」と本音を漏らしていた。
(テキスト:安部偲)
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