今回は「映画を聴く」と言うよりは「音楽を見る」という感じの話です。お題は本日から公開される『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』。
クラシックの熱心なリスナーとは言えない僕でも、マルタ・アルゲリッチのレコードは何枚か持っている。数えてみたら8枚あった。正直なところ、ラヴェルの「夜のガスパール」ならサンソン・フランソワの演奏の方をよく聴くし、彼女が多くの曲をレパートリーとするショパンはダニエル・バレンボイムの「夜想曲集」が一番の愛聴盤だったりするのだが、シューマンの「子供の情景」はアルゲリッチ版に愛着があって、いつも手の届くところに置いてある。
2011年に邦訳が出版された彼女の評伝「アルゲリッチ 子供と魔法」も読んだ。フランス人ジャーナリストのオリヴィエ・ベラミーによるこの本の副題は、ラヴェルの舞台曲に由来している。“子供のまなざしを持ち続けることができる人こそ天才”という視点に基づき、アルゲリッチの奔放さやある種の不安定さ、そこから垣間見える可愛らしさを淡々と書き綴ったものだ。
ウディ・アレン、武満徹、モリッシー、ジェームズ・キャメロン、オノ・ヨーコ、伊丹十三、フランク・ザッパ、ゴンチチの2人、やなせたかし、セルジュ・ゲンズブール、赤塚不二夫……。自分のなかには“作品よりも本人のほうが面白い”と思える人がジャンルを問わず何人もいるが(もちろん作品も好きです)、アルゲリッチもまさにそんなひとり。なので映画『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』は、当然ながら食い入るように見た。それこそ、クラリネット奏者としてのウディ・アレンを追いかけたドキュメンタリー『ワイルド・マン・ブルース』と同じような感じで。
マルタ・アルゲリッチは3回結婚して3回とも離婚、それぞれの結婚で娘をひとりずつもうけている。本作は3度目の結婚相手であるピアニスト、スティーブン・コヴァセヴィッチとの間に生まれたステファニー・アルゲリッチが監督を手がけたドキュメンタリー作品だ。プロの映像作家として活動していて、母親にまつわる映像/写真を多く手がけているという。(…後編へ続く「黒髪から白髪へ。10年の歳月を残酷なまでに描写」)(文:伊藤隆剛/ライター)
『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』は9月27日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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