(…前編より続く)フィルムのビデオ化において、アナログ放送時代から長い歴史を持つのは「テレシネ」という技術だ。専用の光源装置からフィルムに光を投射して、フィルムを通過した光を撮像装置にて読み取り、ビデオ映像信号に変換。これが基本工程となり、変換された映像信号はベータカム・テープ等に保存される。
・【超簡単! いまさら人に聞けない映像用語辞典】旧作4K作品が高額な理由は? 手間も金もかかる4Kスキャンは現時点で最高峰の技術!(前編)
しかしデジタル技術の普及と共に、こうした作業もアナログからデジタルに進化し始めた。その基軸となるのがスキャニング技術である。この作業では映画フィルム専用のスキャニングマシンを用いて、オリジナル・ネガフィルムやポジフィルム(※2)といったフィルム素材を1フレーム(1コマ)毎にスキャン、デジタルデータ化していくことになる。また1フレームを完全固定してスキャンするため、正確に平面性が保たれ、フレーム画像の隅々まで鮮鋭な画像データが獲得できる。
[※2=ネガは被写体の明暗や色が反転している現像後のフィルム。ポジは明暗や色がそのまま再現されている。ネガの方が広い階調情報を持ち、より鮮鋭な画像データを獲得できる。]
フィルムの1フレーム(1コマ)の情報量を解像度に転化するならば、35mmフィルムならば6K、70mm(65mmネガ)フィルムならば8Kに相当すると言われる。こうした映像情報量のデータ化において、スキャニング解像度も2Kと4Kでは大きく違ってくる。フィルムを4K解像度のデジタルデータに変換する4Kスキャン工程は、現時点で最高峰の技術と憶えていておいていただきたい。
ただしテレシネや2Kスキャンに比べて、4Kスキャンは手間暇も、コストもかかる。フィルム素材が持つ膨大な情報量を4Kスキャンすると、35mmネガでは通常1フレームあたり約50MB(メガバイト)。パーフォレーション(フィルム縁の送り穴)まで含めた情報をデジタルデータに変換する(オーバースキャン)と、60MBから70MBにまで及ぶ。平均50MBとして換算しても、120分の映画では864万MB=8.64TBという膨大なデータ容量だ。4Kスキャンの予算も2000万円を下ることはない(ブルーレイ1枚の単価も高くなる)。
海外における旧作フィルム素材からの4Kスキャン工程は徐々に増えてきているが、日本では予算のかけられる作品に限られている。多くの収支が見込まれる宮崎駿ブルーレイ作品などは、35mm作品(『もののけ姫』まで)に関しては、オリジナルネガを6K解像度でスキャニング、4K解像度でデジタル修復後に2Kマスターを作成するというこだわりようだ。
角川映画では「4K Scanning Blu-Ray」7作品をリリースしているが、「スカパー!4K」に唯一ランナップされていない作品、それが相米慎二監督、薬師丸ひろ子主演作『セーラー服と機関銃』(82年)である。さすがに6K解像度とまではいかなかったが、4Kスキャニングの恩恵は多大。まずは映像情報量の多さに驚かれよう。光のリアリズムを押し進めた光源操演が目覚ましく、色彩の蘇生やフィルムならではの粒状性に舌鼓を打つこと間違いなしだ。
しかし4Kスキャンだけでは、このような素晴らしい映像は出来上がらない。ここでクローズアップされるのが、最近巷で聞くようになった「デジタルリマスター」という用語。この話はまた次回。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
※次回の掲載は4月17日の予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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