襲われたと声をあげた女性、夫、被告、3人の視点で描く決闘、ラストに映る世界は誰のもの?
#アダム・ドライバー#ジョディ・カマー#ベン・アフレック#マット・デイモン#リドリー・スコット#レビュー#最後の決闘裁判#週末シネマ
マット・デイモン&ベン・アフレックがリドリー・スコット監督とタッグ
【週末シネマ】マット・デイモンとベン・アフレックが『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でアカデミー脚本賞から24年ぶりにタッグを組み、リドリー・スコットが監督を務める『最後の決闘裁判』。14世紀フランスで起きたスキャンダラスな実話をもとに、黒澤明監督の『羅生門』方式で1つの出来事を3つの異なる視点で描く。
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3つの視点の持ち主は、騎士のジャン・ド・カルージュ(デイモン)、領主のアランソン伯爵の寵愛を受けるジャック・ル・グリ(アダム・ドライヴァー)、そしてル・グリから性的暴行を受けたと告発するカルージュの妻・マルグリット(ジョディ・カマー)だ。目撃者不在の訴えについて、ル・グリは無実を主張し、マルグリットも言を翻すことはなく、ついにカルージュとル・グリが命を賭けた一対一の戦いで決着をつける“決闘裁判”に委ねられることになる。
性的暴行の訴えに対して、男2人と女1人、各々が信じる真実を描く
かつてフランスで法的に認められた決闘裁判の最後の件となった史実に迫るエリック・ジェイガーの原作「決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル」を映画化した本作は、男性2人と女性1人が各々の信じる真実を描いていく。脚色にはデイモンとアランソン伯爵を演じたアフレック、『ある女流作家の罪と罰』(18年)でアカデミー賞脚色賞候補になったニコール・ホロフセナーが加わり、物語と同じく男性2人と女性1人の構成だ。デイモンがカルージュ視点の第1章、当初はル・グリを演じる予定だったアフレックが第2章、マルグリットの視点である第3章をホロフセナーが担当した。
立場が変われば、物事の受け取り方も違ってくる。友人同士だった騎士2人が、領主の気まぐれから寵愛を受ける者(ル・グリ)と不遇に苦しむ者(カルージュ)に分けられ、長きにわたる確執はカルージュの美しい妻・マルグリットの登場によって新たな展開となり、やがてル・グリが夫不在時のマルグリットを襲う。
ここに至るまでのカルージュ、ル・グリの視点は、それぞれの虚栄心というバイアスがかけられるが、共通するのは被害者であるマルグリットが彼らにとって、自身の物語に華を添える程度の存在であることだ。
命がけの決闘も見世物に。皮肉が潜む、スコット監督ならではのエンタメ大作
悲劇や不運が続く無骨なカルージュも、領主に重用され、容姿にも自信があるル・グリも、決死の覚悟で声を上げたマルグリットの訴えの真偽よりも、実は自身の名誉に重点を置いている。立派な騎士道精神だけではない妬みや蔑み、権力に蹂躙されまくる様が滑稽でさえある男2人は表裏一体であることを、デイモンとドライヴァーは巧みに表現する。彼らをさらに上から見下ろし、酒池肉林で好き放題の伯爵役のアフレックは髪を金髪に染め、嬉々として人でなしを演じている。
マルグリットを演じるカマーは、誰1人として本質的に自分の味方ではない孤独な境遇に怯まない勇気を気高く演じる。出世作のドラマ・シリーズ『キリング・イヴ/Killing Eve』で見せた大胆不敵さとは違うが、ある意味もっと強く、揺るぎない姿が美しい。そしてホロフセナーが描く女性の視点は、男性2人には見えていなかったもの、グレーゾーンなどではないはっきりとした事実を突きつけてくる。
被害者の声をないがしろにしたまま事は運び、衆人環視の中で始まる決闘シーンは凄絶だ。画面にみなぎる殺気はスコット監督のアカデミー作品賞受賞作『グラディエーター』(2000年)を彷彿とさせる。事実はさておき、正義は勝者にあるという暴論の上に成り立つ戦いは、名誉をかけた当事者以外にとってはただの見世物だ。
そして、勝者の言い分が公式なものとして歴史に残されていく。それは被害者の声なのか。ラストシーンに映る世界は誰の視点によるものなのか。スペクタクルの中に皮肉が潜む、リドリー・スコットならではのエンターテインメント作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『最後の決闘裁判』は2021年10月15日より公開。
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