フランス人監督、アルチュール・アラリとの対話を重ねての役作り
終戦を知らされないまま約30年間、フィリピン・ルバング島で秘密戦の任務を遂行し続けた実在の日本兵を描いた映画『ONODA 一万夜を越えて』。撮影は、約4ヵ月間にわたりカンボジアでおこなわれた。ムビコレでは、本作の鍵となる人物・谷口義美を演じるイッセー尾形のインタビューを掲載中だ。
監督と脚本は、フランス映画界で今最もその手腕が注目されているアルチュール・アラリ。尾形演じる谷口は、夢破れた小野田青年を陸軍中野学校二俣校へと導き、秘密戦の極意を授け、長く過酷な潜伏生活で小野田が守り続けた「玉砕はまかりならぬ」という言葉を与えた人物として描かれる。非常に重要な人物であり、アラリ監督からの「難しい役ですけれど、ぜひ」というオファーで決定した
谷口と小野田の関係性について尾形は「小野田の弱いところに(谷口が)つけ込んでますよね」と説明。「戦争って、何もドンパチだけじゃなくて、そういう人と人との戦いでもあります。(谷口は)どうやって有利になるか、いろいろな攻略を作って人と接している」「いやらしいよね、あいつ」とも。谷口の恐ろしさを描いたシーンについては「怖いですね。あれが陸軍中野学校の神髄の一つでしょうね」とつぶやいた。
カリスマ性のある谷口という人物を演じるにあたって尾形は、アラリ監督と東京で稽古を重ねイメージを擦り合わせた。「倒れている小野田に手を貸して助け起こすシーンがありますが、『手を背中にやると、小野田が自らが立ち上がってくる。それぐらいの人なんです』という説明があったんです。人知を超えた、小野田にとって見れば超能力者でもあり得る」アラリ監督からこう説明され、尾形は「面白いこと言う人だな」と思ったという。
フランス語と日本語という言葉の壁がありながらも、アラリ監督と尾形たちは対話を重ねながら芝居を作り上げていった。「カンボジアでの撮影は間に澁谷君というすごく優秀な通訳者の方がいらっしゃって。だから、これは(監督の)アルチュールさんと澁谷君と役者たちが作った映画なんです」と話すほど、日本語が話せないアラリ監督とのコミュニケーションには澁谷の繊細な通訳が手助けとなったという。「もう数え切れないアドバイスをもらって、それを澁谷君が全部通訳して、その瞬間、瞬間の積み重ねでした」。
アラリ監督から出されるアドバイスを澁谷が訳し、フランス語や日本語の細かいニュアンスの違いを考え、調節しながら監督のOKが出るまで演じたという尾形。「たった一つの意味がこんな膨れ上がってる。一つのセリフを言うために。それが全編重なっています」。尾形は、それが作品の一番の魅力になっていると話す。
意図を確認し合うことに、もどかしさは感じなかったという。「“楽しむ”ですね。演劇学校なんです。僕にとって、アルチュール演劇学校。毎日撮影行くのが楽しみでした。今日は何を学ぶんだろう。自分からどんなニュアンスが出るんだろうというのが楽しみで。アルチュールさんとの時間はすごく貴重なかけがえのないものでした」イッセー尾形のインタビュー全文はこちらから。
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