歴史の陰に隠されていた暴挙──第二次世界大戦時下にフランス政府によって行われた史上最大のユダヤ人一斉検挙を描いた社会派ドラマ『黄色い星の子どもたち』が、7月23日から公開される。家族と引き裂かれながらも過酷な運命を懸命に生きた子どもたちにスポットが当てられ、真実の涙が流れる感動作に仕上がっている。
3年近くにわたって綿密な調査と研究を続け本作を完成させたのは、元ジャーナリストであるローズ・ボッシュ監督。記録文書や映像に片端から目を通し、生存している目撃者に連絡を取って証言を集めて脚本も手がけたという彼女が、撮影の苦労やエピソード、そして戦争への思いなどを熱く語った。
・[動画]『黄色い星の子供たち』予告編
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──フランス本国で大ヒットした本作ですが、この映画を鑑賞した戦争を知らない世代のフランスの人々の反応は? また、反対に戦争を経験した世代の方々の反応はいかがでしたか?
監督:子どもとして戦争を経験した私の親世代は子ども時代を追体験し、当時を知らない若い世代は何が起きたのか理解するために見に来ていました。というのも、本作で描かれたことは私たちの歴史の恥部であり、長く沈黙が保たれていたからです。過去に事件について触れた映画もありましたが、政治的な映画ではなかったので詳しいことは説明されていません。私としては事件が本作のメインテーマであり、『JFK』のように何が起きたのかを説明する政治的な映画にしようと思っていました。この映画を作る前から、フランス政府自身がナチスドイツに頼まれたわけでもないのに、子どたちも一緒に収容所へ連れていくと決めたことは実に極端なことだと感じていました。5000人近い子どもたちをどこかに隠すこともできたはずなのに、フランス政府は逆に進んで彼らを差し出したのです。この事実に触れた映画はこれまでないと思います。
──その衝撃的な事実を知らなかった世代の感想を実際に聞いたりしましたか?
監督:フェイスブックで「私は13歳です。映画を見てとても驚いて、泣きました。そして学校で友だちにも見に行くように薦めました」とメッセージを受け取りました。このように、1人の観客が5人の友人に薦め、それが10人になり……と、若い世代の観客こそ、この映画の成功の原動力となったんです。最終的には観客動員数で『アバター』に続く6位になりました。
──約8000人が収容されたという冬季競輪場のシーンは圧巻でした。当時の内部の環境や人々の様子を再現するために一番気を付けたことや苦労したことを教えて下さい。
監督:このシーンは再現されたセットとCGの融合で作成しました。準備には6ヵ月かかっています。実際の撮影では3つのカメラを使いましたが、それぞれのカメラが独立のチームを作り、同時に別々のシーンを撮影していました。たとえば、あるチームが別のシーンを撮っている間に、私は女性たちが動物のように競技場の隅で用を足すシーンのセッティングをし、一方で男性が発作を起こすシーンや女性の出産シーンの撮影の様子を見に行くといった具合で、私は別々の撮影ポイントの間を走り回っていました。肉体的には、普通の振付師や演出家より大変だったんじゃないっでしょうか。まるでサッカーの試合のようでした。冬季競輪場のシーンの撮影には3週間かかりましたが、ハリウッド映画だったら5、6週間かけるでしょう。同時に監督3人分の仕事をしたようなものでした。
──事実に基づいて構成されていますが、3年の調査で得たエピソードの取捨選択は難しかったのではないですか?
監督:まさにそうです。私は対象を執拗に、そして強迫的に追う質(たち)なのですが、今回も事件についてすべて知りたいと思いました。まず政治的な事柄を詳細に調べて把握したのはもちろんですが、その後、協力者たち、事件当日の出来事、そして私の興味を惹く実在の人物たちの詳細へと迫っていきました。検挙されたのは13,000人ですから、実に数多くのエピソードがあります。長い調査期間の後で、どのエピソードを残すのか決めるにあたって、論理的で理性的に考えるのではなく私自身が興味を惹かれて、もっと知りたいと思った事柄を重視しました。たとえば、当時14歳で赤ん坊を連れて逃げた女性がいたのですが、彼女を救ってくれたのは売春婦たちでした。このエピソードは実際に映画で使われています。目を閉じて浮かんでくるエピソード、しかも詳細まで思い出せるものを残しました。なぜならそれらこそが私の心の琴線に触れた物語にほかならないからです。
──子どもたちの演技も非常に自然で素晴らしいものでした。戦時中のことなど知らない子どもたちへの演技指導は難しかったでしょうか?
監督:幼い子どもの場合、どうしてこの感情表現が必要なのか説明することはできませんものね。検挙された子どもが列車に乗せられて泣き叫ぶシーンがあるんですが、このシーンは映画の中でも最も力強いシーンになると確信していました。ところが、演じる少年はまだたったの5歳で、人生は楽しいものでしかなく、泣く理由などどこにもないのです。私は彼に言い聞かせました、「いい? 大きな声で叫んで泣いてほしいの。お家でそういうことをしたらいけないでしょ? でも、今からやっていいのよ!」と。つまり、彼にいたずらをする許可を与えたのです。何度か繰り返すと、とうとう彼は顔を真っ赤にして叫びました。そして私の腕に飛び込んできて「やった、やった!」と大喜びしていました。映像は必ずしも実際に起きた文脈通りに作られるわけではないのです。望む映像を作るために方法を見つけ出さなくてはならないときもあります。
──実在の生存者たちから完成した作品を見て、何か言葉をかけられましたか?
監督:登場人物のモデルとなった男性は、初めて作品を見たときは何も言わず、家に帰りたいと言いました。でも、4、5日後に訪ねてきて、もし私の助けが必要なら言ってほしい、どこへでも行くからと申し出てくれました。私には映画で描かれたことはすべて事実だと言ってもらうことが必要でした。彼は私と一緒に各地の都市を回り、地元の教師や若者たちと語り合う機会にも来てくれました。テレビ出演もしてくれました。彼は「少なくとも今はフランス人がユダヤ人に何をしたのかを皆が知っている」と言っています。でも、彼にとって完全に傷が癒える日は来ないということも、私はわかっています。私には彼の経験を語ることはできても、彼の家族を取り戻すことはできないのですから。
──この事件はヒトラーのナチスの占領下という状況で起こりましたが、現在でも移民への政策は硬化していて気づかないうちに同じようなことがおこり得るかもしれません。そういった現在への警告や危機感も本作に込められたのでしょうか?
監督:いいえ、そうではありません。なぜなら、現在の新たな移民に「我々の国に来るな。我々の国はどんどん貧しくなっていて、来ても仕事はないし、暮らしていくことはできないから」という主張と、「お前たちが憎いから殺してやる」と言うことには大きな違いがあります。ここで安易な比較をすべきではないと私は考えます。まったく経済的な理由から、移民が我々の国に来て社会の最下層で暮らすことよりも、発展途上国の自立的な開発を我々が支援して、移民しなくてもいいようにすべきなのです。本作に現在の移民問題に対する異議申し立ては含まれていません。私たちの社会は言われているよりずっと寛容で、開放的な態度で移民に接していると思います。当時と現在の状況についてこういった比較はされやすいものですが、私は違うと思います。
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