【週末シネマ】映像美も秀逸! 自分自身との対話をうながすパルムドール受賞作
テキサスの一家庭に生まれ育った男が回想する家族の歩みと、地球の生命の起源と歴史が融合する。第64回カンヌ国際映画祭の最高賞、パルムドールに輝いたテレンス・マリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』はとてつもなく壮大である同時に、非常に個人的な作品でもある。
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1943年にイリノイ州で生まれた後、テキサスに移り住み、両親と2人の弟と過ごしたマリック自身の生い立ちは、本作の主人公ジャックと重ね合わせて見ることができる。夢に挫折した過去を抱えた厳格な父親と、愛情あふれる優しい母親のもとで成長していく少年の物語については、父親役を演じ、製作者の1人でもあるブラッド・ピットも、監督やピット自身の個人的要素が含まれていると語っている。
息子の誕生を喜び、彼なりの愛情を注いできた父親と、思春期を迎えた息子の対立は奇をてらわず普遍的な物語だが、それを特別なものにしているのがマリックの前作『ニュー・ワールド』も手がけたエマニュエル・ルベツキの映像だ。日常の些細な出来事に宿る魔法のように美しい一瞬をとらえることで、鑑賞者それぞれの記憶をも喚起する役割を果たし、多くを語り過ぎないエピソードに、豊かな余韻を持たせる。中年を迎えたジャックを寡黙に演じるショーン・ペン、風に震える花のような儚さと母性の強さの振幅が不思議な魅力を放つ母親役のジェシカ・チャステイン、オーディションで選ばれたハンター・マクラケン(少年時代のジャック)をはじめとする兄弟役の3人の少年も素晴らしい。
家族の物語と同時に描かれる、「ナショナル・ジェオグラフィック」のカメラマンが世界各地で撮影した映像やCGを駆使した恐竜まで登場する生命の進化についてのパートは、マリックが監督第2作『天国の日々』(78年)以後、20年間の隠遁生活に入る前に着手していた宇宙や生命の起源を探るプロジェクト『Q』が基盤となっていると言われ、彼が長年取り組み続けてきたテーマでもある。そこに、神へ問いかけるモノローグが重なり、宗教と進化論が並立するマリックの観点は興味深い。
画面に映っているもので、言葉で説明のつかないものは何ひとつない。すべて単純なもの、出来事だけ。だが、その断片を並べる構成が独特だ。頭のなかで物事がめぐっている状態をそのまま見せるような大胆さ。他者の理解を求めて表現するのではなく、わかりにくさも敢えてそのまま。客観性を排除した純粋な世界は非常に感情的で、だからこそ他に類を見ない美しさに満ちている。劇場という空間で、ある人物の思考に138分間浸り切る。そこから触発された感情と向き合うことで自分自身と対話する絶好の機会をもうながす作品だ。
『ツリー・オブ・ライフ』は8月12日より丸の内ルーブルほかにて全国公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)
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