1989年8月15日生まれ、東京都出身。2006年デビュー。近年の主な映画出演作は、2020年は『星の子』、2021年は『さんかく窓の外側は夜』、『Arcアーク』、第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞などを受賞した『ドライブ・マイ・カー』、『CUBE 一度は行ったら、最後』に出演。今年はドラマ『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』、『大豆田とわ子と三人の元夫』、『ドクターX~外科医・大門未知子~』のほか、主演舞台「ガラスの動物園」公演も控える。
こんなにホラーになると思ってなかったよね(岡田)
しめ縄がかけられた大木に、いわくありげな古井戸。そこに吸い寄せられるように集まった人々が遭遇する、想像を超えた現象を描いた『聖地X』。『散歩する侵略者』(黒沢清監督)や『太陽』など映画化作も多い人気劇団・イキウメの舞台を、『太陽』も手がけた入江悠監督が脚色、監督した映画は、韓国の仁川が舞台になっている。
両親が遺した別荘に引き籠っている小説家志望の輝夫のもとに、結婚生活に嫌気の差した妹の要(かなめ)が転がり込んでくる。兄妹の共同生活が落ち着き始めた頃、要は商店街で日本にいるはずの夫・滋を見かける。滋はとある店の中に消える。無人のはずの店から出てきた滋は、パスポートも持たず、記憶も曖昧な状態だった。
輝夫を演じる岡田将生は「取材を受けながら、作品について何て表現すればいいんだろうって、ずっと考えてて」と言う。「ホラーの要素はたくさんあるんだけど、ちょっとコメディーの要素も。ちょっと異質で、とても意外性のある作品なんじゃないかなと思うんです」。
要を演じる川口春奈もその言葉に頷く。
2019年後半、年が明けて世界がコロナ禍に覆われる前に行われた韓国での撮影について、きょうだいという関係性についてなど、語ってもらった。
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岡田:なるべくテンポよく、です。自分たちのお芝居の中でもですが、見てくださる方々にとっても、こういう作品はすごくテンポが必要だと意識していたので。なるべく止まらず、停滞しないように、考える時間があまりないようにというのは、すごく意識していました。
川口:私はあまり考えてやっていたつもりではなかったんです。要という役は感情の起伏が激しい。怒ってたり、ちょっと揺れてたり、イライラしてたり。韓国に来てからも、カオスなことがたくさん起こるし。そこに純粋にリアクションしていけば、キャラクターとしては波を自然とつくれる、そういう環境だったのかなと思います。そう、終始プリプリしてましたね(笑)。
岡田:川口さんもたぶん同じ考えだと思うんだけど、こんなにホラーになると思ってなかったよね。
川口:そうそう。
岡田:現場でもそういう空気をつくろうとか全くなくて。僕たちも巻き込まれていた感じがものすごくあったというか。出来上がったものを見て、「そうか、僕たちはこういうジャンルの映画を撮っていたのか」と。たぶん、みんなそう思ったんじゃないかな。
川口:確かに。
岡田:それが入江さんの策略かは分からないけど。僕たちは入江さんの手のひらで踊らされてたんだなっていうぐらい、いい意味で騙されていた感じはちょっとありました。
川口:確かにそうかもですね。完成作を見ると、いろんな要素がてんこ盛りなんです。1つのジャンルにくくれないぐらいギュッと詰まってて。CG処理の部分もすごく多かったので、現場では想像し切れない部分もあったから、試写を見て、いろいろ衝撃的でした。「こんな感じになったんだな」という驚きもあるし。入江さんは全部踏まえた上で現場で演出してくださってたのかと思うと、私の想像よりもはるかにものすごいものが出来上がったと感じました。
すごく頼りなくて優柔不断なお兄ちゃんだったんですけど(笑)(川口)
岡田:僕の認識だと、結構自由だった感じです。「この場所で、このシーン撮ります。どうやる?」みたいな感じで。まず最初に要が軸で動き出すので、川口さんが動くと、自然に僕たちも準じて作っていくというか。入江さんも、それを楽しんで見てくださっていました。
要は滋(薬丸翔)との関係性もあったから、川口さんはすごく大変だったと思うんですけど。でも、わりと自由に思うがままに。枠から外れたら、修正はもちろん入ります。でも、役柄を理解していくと、外れることもなく自由に遊ばせてもらった感覚のほうがすごく大きいですね。
川口:お芝居に関しては、細かく「こうしたいんだよね」というよりは、本当に自由にやらせていただいた印象があります。コロナ禍前だったので、撮影後に監督含めて皆さんで食事に行きましたが、いろいろお話をさせていただいた時も、「ここの芝居はこういうふうに」みたいな話はあまりなかったです。
岡田:僕はまずベースとして「きょうだい」の話だと認識していたので。駄目なお兄ちゃんが、両親を亡くして、日本から韓国に逃げて。人と関わらないように生きていたお兄ちゃんが、要という妹に助けられて、踏み入れちゃいけないところに踏み入ったことによって、2人とも自分自身と向き合って前を向いていく話だっていうふうに感じていたんです。要との関係性が映画の中で少しずつ変化していくのをちゃんとうまく出せれば、と思ってましたね。
川口:すごく頼りなくて優柔不断なお兄ちゃんだったんですけど(笑)。でも、いろんなことが巻き起こって、率先して妹を救おうとして。小説家志望で、そういう題材が好きでちょっと興奮してるのかもしれないけれども。解決するために最後は妹を引っ張っていくような、きょうだい愛みたいなのも感じられるし。
要も迷いや葛藤だとかいろんな感情の渦巻く中で、最後は自分と向き合って、人間としての成長も描かれているんじゃないかな。そういう変化や成長はそれぞれのキャラクターにもあると思います。要の心情の変化はすごく繊細ですけど、それが上手に伝わってくれればいいなと思いながら。なので、そのメリハリはすごく意識していました。
岡田:あったかいごはんを一緒に食べられたのが、やっぱり一番大きかった気がしますね。みんなで同じ時間に温かいものを食べて、切り替えてまた一つ一つシーンと向き合っていく時間は、とても有意義だったなと思います。コロナ禍前だったので、皆さんでコミュニケーションを取りながらやれたのは、すごくいい方向に働いたんじゃないかと思います。
岡田:はい。ちゃんと休みがあったから、「どこか行く?」とか、「ごはん食べにいく?」という時間もちゃんとあって。もちろん台本と向き合う時間がしっかりあったうえでですが。日本の撮影スタイルだと、どうしても時間がない中でどんどん撮っていかなきゃいけないので、その点、韓国での撮影はとても良かったと思いますね。
川口:私も、スケジュールの面では追われることもなく、睡眠もしっかり取れて。ちゃんと時間が決まっていて撮影して、オフの時間もあって、リフレッシュしながらできたのはすごくありがたかったです。スタッフさんは半数ぐらい現地の方がいらして、コミュニケーションも身振り手振りで頑張って取りながら、みんなで1つのものを作っている感覚がすごくうれしかったですね。
岡田:監督の作品は昔から見させてもらっています。インディペンデントから、いわゆるエンターテインメントと言われる作品まで見ていて、それが今回集約された話だなと思って、入江さんとのお仕事をものすごく楽しみにしてたんです。
現場で突然、僕たちのそばにニヤニヤしながら来て、「ここのシーンはワンカットで撮るから」とか、嬉しそうに話すんです(笑)。一緒にお仕事できて良かったですし、完成したものも見て、「やっぱり入江さんの作品だな」とすごく分かる作品だと思いました。
川口:入江さんはすごいですよね。もう本当に変態だと思いますよ。
川口:入江さんの作風とか、説明は難しいんですけど、あの人の頭の中がどうなっているのかがすごく気になる。撮影と編集と演出って、また全然別ものだと思うんです。現場では結構穏やかに、のほほんとしていらっしゃるんだけど、実はいろんなたくらみとか、「ここはこうしよう」というのが、きっとたくさんあるだろうな。私たちに分からない何かが。それをすごく感じて、とっても面白かったです。
サラッとやってしまう川口さんの姿は見ていて頼もしかったです(岡田)
岡田:一緒にお仕事をしてみて、本当に嘘がない人というか。どの仕事にも正直に向き合っているのが分かるんです。人間性も含めて、すごく好きになりました。要という役は本当に難しかったと思うし、悩まなきゃいけないシーンがたくさんあったと思うんですけど、そういう姿も一切見せずにサラッとやってしまう川口さんの姿は、とても見ていて頼もしかったです。入江さんもだと思いますけど、気持ちよく一緒に仕事ができる方だな、と。
川口:撮影当時はいろいろ話を聞いてもらいました(笑)。
岡田:そんなこと言わなくていいよ(笑)。
川口:それで「大丈夫、大丈夫」と本当にお兄ちゃんみたいな感じで言ってもらえたのはすごく心の支えにもなったし。芝居に関しても、現場で堂々といてくださいました。全編海外で撮るという経験もないし、コミュニケーションの難しさとか、不安がある中で、ドシッと構えていてくださると安心できるし、信頼できます。いろんな、真面目じゃない話もできるぐらいフランクな一面と、現場でちゃんと構えていただけてたのが、拠り所でもあって、ありがたいな、と思います。
川口:行ってみたいです。好奇心だけで行ってみたいです。何かが起こりそうな、ちょっと足を踏み入れにくいけど、やっぱりシンプルにワクワクするし、気にもなりますよね。
岡田:聖地X。
岡田:絶対嫌です。だって「何かが起きる」と言われてる場所って、たいてい何かが起きるわけで、プラスに働くことは絶対にない。幽霊とか信じるタイプなので、取り憑かれたりするかも、と考えたら、もう絶対行きたくない。
岡田:はい。若いときは友だちと心霊スポットとか行ってみたこともありますけど、ただただ凍てついた空気がずっと流れているだけで、踏み入れなかったです。
岡田:小説の題材をやっと見つけて、自分が書けるんじゃないかというところから巻き込まれていくんですよね。それが、妹への心配に変わっていく。そこに輝夫の人柄がよく出ているというか。
岡田:やっぱり第一には家族ですよね。一番心配する相手かもしれないな。僕は姉と妹がいますけど、妹は特に、昔から心配でしょうがなかったです。ちょっと頼ってほしいなと思って、そういう存在でいようっていうのは、思春期のときから思ってました。
岡田:そうですね。ちょっとあります。やっぱり家族の絆は切っても切れないし。
川口:3姉妹ですね。うち、でも、そんなに頻繁に連絡を取り合うわけではないので(笑)。
岡田:あ、そうなんだ。
川口:家族で集まってもベタベタするわけでもないんですが、かといって別に険悪な感じでもないんです。何かあったら連絡は来るし。家族だけど、友だちみたいな感じでもないし、ちょっと不思議な感じかも。
川口:お兄ちゃんは、すごい欲しかったです。
岡田:へえ。
川口:輝夫さんはちょっと頼りなくて、それに要は「もう!」みたいな感じですけど。それもやっぱり「きょうだい」だし。血のつながった人がいてくれる、しかも異性で、というのは安心するし。いいな、頼りたいなと思いましたね。
除霊シーンがすご過ぎて。笑ってはいけない場面なんですが。(川口)
川口:青いスーツ、着てましたもんね。
岡田:「これ、大丈夫かな」って、川口さんに聞いてたよね(笑)。緊迫した「謎解きしますよ」という場面で、何でこんな格好で出てくるんだろう?って。でも、それが緊張と緩和で、ある意味見やすくなっているというのもあるんじゃないかな。あと韓国カラーが取り入れられているんです。僕の青と、川口さんの赤と、薬丸くんの白で。韓国へのリスペクトも含めて、それを面白いかたちで衣装さんたちが遊んでくれてるから、一緒に楽しめた気はします。
川口:私も真っ赤なワンピースを着てるシーンが結構多いんです。そのとき、お兄ちゃんは青いスーツで。それ以外にも黄色のワンピースとか、パキッとしている色も多かったんです。それがまた、絵になったときにすごい目を引くというか、そういうヴィジュアルもすごく楽しいし、見飽きないなと感じてました。
岡田:薬丸くんとの海辺のシーンがものすごく時間が限られた中での撮影だったんです。潮が引いてから撮影するはずだったのに、全然引かなくて、みんな泥だらけになりながら撮影してて。
川口:沼みたいになってました(笑)。
岡田:そうそう。全然歩けないし。走って捕まえる設定が全部できなくなっちゃって。それも臨機応変に韓国のスタッフの方々も理解してくれて、みんなで協力して最後は撮れたんです。確か最終日だったと思うんですが、自分の中でも大変なシーンを乗り越えて一つになれたというのは、すごく印象的に残ってます。そのあと、泥だらけの僕たち異国の人間を家に迎え入れて、シャワーを貸してくださった親切な方がいてくれたりもしたので。すごく、いい思い出になってます。
川口:劇中で除霊のシーンがあるんです。あれがすご過ぎて。決して笑ってはいけない場面なんです、お祓いをしてるから。でも、体験したのが初めてなもので。
川口:そうなんです。私はずっとこらえていて。除霊する方も、いきなり近づいてきたと思ったら離れたり、飛び回ったり。それはもう一番のインパクトで残っていて。でも、こういうことがないと、現地のああいうものは体験できなから。その文化を知ることができたという意味でも印象に残っています。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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