聞こえない家族の中で歌を夢見る少女、オリジナル版をより深みのある物語へ
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サンダンス映画祭最多4冠受賞! ただ1人健聴者の少女は…
【週末シネマ】昨年のサンダンス映画祭でグランプリほか史上最多4冠を受賞し、アカデミー賞にも期待がかかる『コーダ あいのうた』は、両親も兄も聴覚障害者の家族の中でただ1人、健聴者である高校生の少女の物語だ。
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マサチューセッツ州の海辺の町に暮らすルビーは、漁業を営む両親と兄と暮らしている。高校に通いながら、家族が社会とコミュニケーションを取るための通訳として、毎日家業を手伝っている。4人家族の日常は賑やかだ。手話を介して愛情も、怒りも悲しみも喜びも率直に表現する。社会の弱者として縮こまらず、娘の力を借りて勤勉に生活を営む一家のたくましさには、観客の心を鼓舞する明るさがある。
新学期を迎えて、ルビーは憧れのクラスメイトのマイルズと同じ合唱クラブに入部する。彼女の歌を聴いた顧問の音楽教師はその才能を確信し、名門音楽大学のバークリー受験を勧めるが、自分を頼りにする家族を思うルビーは決意を下せずに悩む。そこに漁業組合での騒動が持ち上がり、一家にとってルビーの存在はますます欠かせないものとなる。歌声という、自分たちが知り得ない娘の才能を信じることができない両親は「歌が生きがい」というルビーの進学の夢に反対するばかり。だが、思いがけない形で親は娘の才能に触れ、家族はある答えへと導かれていく。
フランス映画『エール!』の魅力を損なわず、新たな視点も加えて
2014年のフランス映画『エール!』をアメリカの物語としてリメイクした本作は、ステレオタイプからはみ出す活気あふれる家族のキャラクターなど、オリジナル版の魅力を踏襲しながら、いくつかの変更を加えて、さらに深みのある物語になっている。例えば、オリジナル版では主人公のきょうだいは弟だったが、こちらでは兄という設定に変わり、多くの葛藤を抱える青年の視点が加わった。
脚本も執筆した監督のシアン・へダーは、短編や長編を手がけながらNetflix『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』でいくつかのエピソードの脚本を担当してきた。本作は2021年のサンダンス映画祭のグランプリ、観客賞、監督賞、アンサンブルキャスト賞を受賞し、オスカー有力候補の1作として注目を集めている。
家族役には実際に耳の聞こえない役者を起用
オリジナル版で主人公の両親役は演技力に定評のある健聴者の俳優が演じたが、本作でルビー(エミリア・ジョーンズ)の家族を演じるのは聴覚に障害のある俳優たちだ。
母親ジャッキーを演じるのは『愛は静けさの中に』(86年)でアカデミー助演女優賞を受賞したマーリー・マトリン。その後も映画やTVシリーズで活躍し続けた彼女をはじめ、父親のフランク役のトロイ・コッツァー、兄のレオ役のダニエル・デュラントも、当事者のリアリティを与えるのはもちろんのこと、俳優として実に魅力的で、「耳の聞こえない人の役があるのに、耳の聞こえない優秀な役者を起用しないというのは考えられなかった」という監督の言葉に大きく頷ける。アメリカが抱える才能の層の厚さがうかがえるキャスティングだ。
ルビーとともに歌の才能を伸ばす同級生、マイルズ役は『シング・ストリート 未来へのうた』(16年)に主演したフェルディア・ウォルシュ=ピーロが演じる。
最も印象的なシーンはオリジナル版と同じ場面だ。主人公がタイムレスな名曲を歌う。フランスの人気歌手ミシェル・サルドゥの「Je vole」は、まるで映画のために書かれたように主人公と寄り添う歌詞だった。ルビーが歌うのは、多くのシンガーに歌い継がれたジョニ・ミッチェルの名曲で、見事な選曲だ。
コーダ(CODA)とは、英語で「聴覚障害の大人の子ども(Child Of Deaf Adults)」の略語だが、一般的には音楽用語として知られているはず。2つの意味が奏功するタイトルも素晴らしい。(文:冨永由紀/映画ライター)
『コーダ あいのうた』は、2022年1月21日より全国公開。
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