身柄拘束、上映禁止、本編カット…それでも国内で撮る意義とは?
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ジェンダーギャップと冤罪問題描く『白い牛のバラッド』
愛する夫が冤罪で死刑を受け、ろうあの娘と暮らすシングルマザーを描いた、第71回ベルリン国際映画祭金熊賞&観客賞ノミネート作品『白い牛のバラッド』が、2月18日に公開される。このたび、西川美和、瀬々敬久、森達也ら名監督たちの絶賛コメントを収めたショート予告と場面写真が公開された。
イランは、中国に次いで死刑執行数が多い国。反政府的な抗議活動者や少数民族を「政治的に弾圧する武器」として死刑を活用し、未成年も死刑になる。
またイランには、イスラーム法でキサースという同害報復刑があり、2016年には4歳の少女の顔に石灰をかけて視力を奪った男に、両目を失明させる刑が執行されたことも。一方で、被害者は加害者からの賠償金と引き換えに刑罰を免除することもできる。
本作品では、冤罪で夫を失ったシングルマザーのミナに2億7千万トマン(日本円で約2,500万円)の賠償金が提示されたが、ミナは誤審をした判事にただひとつ「謝罪」を求め続けた。
本国では検閲により本編を20分カット!
本作品は、第71回ベルリン国際映画祭金熊賞&観客賞ノミネートし世界的に高い評価を得たにも関わらず、本国では20年2月のファジル国際映画祭で3回上映された以降、政府の検閲により劇場公開されていない。
イランの映画事情については、第70回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した『悪は存在せず』のモハマド・ラスロフ監督が、政府から身柄を拘束され授賞式を欠席せざるをえなかった。
さらに、反体制的な作風で、政府から映画製作 20 年禁止令を受けながらも『人生タクシー』(15)で第 65 回ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いた監督に、ジャファル・パナヒがいる。
13年の『閉ざされたカーテン』には、本作品で監督と主演を務めるマリヤム・モガッダムも出演しているが、当局にパスポートを没収され、同作の海外での宣伝活動が禁じられた。
本作品も他作と同様、検閲により、上映にあたり本編を20分削除するよう命じられた。そのため、同映画祭で上映された本編は、日本をはじめ世界で公開されているものとは内容が異なるとベタシュ・サナイハ監督とマリヤム・モガッダム監督は打ち明けた。20 分の削除とまではいかないが、映画自体が変わらない程度に、セリフなどを検閲に通るよう変更した箇所があるという。
映画祭で評論家から好評を得て記事になり話題となったが、それも国内では上映禁止に至った理由の一つなのかもしれない、と検閲の厳しさを垣間見せるエピソードを語った。
さらに監督たちは、他国で作品を作らないのかという質問を多く受けるという。しかし、「イラン国内に多種多様な物語が存在しているため、自分たちの国の物語を語ることが大事なんだ」と国内で映画を撮ることへの意義を説いた。
女性問題、孤独死、コロナ後の世界…社会に横たわる問題が山積
本作品の主人公ミナのキャラクターに込めた思いについては、次のように語った。
「多くの困難を抱えたミナの、社会との闘いの物語には、世界中の女性観客が共感しうる普遍性と、イラン特有の問題が入り混じっている」
今後製作したいテ ーマについては、数多くあるイランの問題の中でも、女性が置かれている状況を語ることは重要であり、そうした作品をつくりたいと明かす。さらに、孤独や死にまつわる物語や、コロナや経済危機により多くの問題が入り混じるNEW WORLD(あたらしい世界)についても描いていきたいと製作意欲を語った。
社会問題を盛り込んだ冤罪サスペンス
本作品は、テヘランの牛乳工場に勤め、夫のババクを殺人罪で死刑に処されたシングルマザーのミナの物語。
刑の執行から1年が経とうとする今なお深い喪失感に囚われているミナは、ろうあの娘ビタの存在を心の拠り所にしていた。ある日、裁判所に呼び出されたミナは、別の人物が真犯人だと知らされる。ミナはショックのあまり泣き崩れ、理不尽な現実を受け入れられず、謝罪を求めて繰り返し裁判所に足を運ぶが、夫に死刑を宣告した担当判事に会うことさえ叶わなかった。するとミナのもとに夫の友人を名乗る中年男性レザが訪ねてくる。ミナは親切な彼に心を開いていくが、ふたりを結びつける“ある秘密”には気づいていなかった……。
『白い牛のバラッド』は、2月18日に公開される。
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