『ローマでアモーレ』
長いことニューヨークにこだわって撮り続けていた人が、『マッチポイント』でロンドンに行き、続けて同地で2作撮って以降、弾みがついたように、バルセロナ、パリとヨーロッパを飛び回り、再びロンドンを経由して今度はローマへ。ウディ・アレンは年齢を重ねて、よりフットワークが軽快に、表現も自由になっていくようだ。
ローマに暮らすアメリカ人、旅行者のアメリカ人、ローマ市民、田舎からやって来た新婚カップル、と登場人物はさまざま。彼らが主人公のエピソードが4つ、やがてそれぞれが互いの事情に少しずつ関わり始め、物語が展開していく。留学中の建築学生に扮するジェシー・アイゼンバーグは神経質で自意識過剰で恋愛気質で、40年前なら確実にアレン自身が演じていた感じ。恋人の親友で、思わせぶりな女優にのぼせあがってしまうのだが、彼を骨抜きにする小悪魔をエレン・ペイジが演じる。
ローマの青年と婚約した娘を訪ねるアメリカ人の元オペラ演出家はアレン自身が演じる。青年の父親の“奇跡の歌声”を発見し、才能発掘に燃え上がる様が可笑しい。アレンは『タロットカード殺人事件』(06年)以来、久々の出演兼任だ。
一方、ロベルト・ベニーニ扮する平凡な一市民の中年男はある日突然セレブに祭り上げられ、パパラッチから追い回されるように。また、田舎から新天地ローマへやって来た新婚カップルは、妻が1人で散歩に出かけた先で迷子になり、ホテルに残った夫の部屋にはなぜか、ペネロペ・クルス扮するダイナマイト級にセクシーなコールガールが訪ねて来る。さらに、アレック・ボールドウィンが扮する大物建築家はローマで若き日を過ごした自分の姿をアイゼンバーグ扮する青年に重ねて懐かしみ……とキャストも豪華だ。
出たとこ勝負のようで、うまいこと話をまとめていく手腕はさすが。説明のつかないような状況も、サラリと流して納得させてしまう。信じられないことだが、最近のアレン作品にはおおらかさを感じるのだ。情熱的で陽気なローマという土地柄、フェリーニの『甘い生活』を想起させるベニーニのエピソード等からも顕著なアレンのイタリア映画に対する愛も大きく一役買っているだろう。『ミッドナイト・イン・パリ』と同様、本作もローマの観光名所の数々を押さえたロケーションで、風景を見ているだけでも楽しい。さらに、誰もが知るオペラの名曲の数々も盛り込まれ、気楽に楽しめる。
104歳になるマノエル・デ・オリヴェイラや90歳のアラン・レネ、89歳で没したエリック・ロメールなど、高齢になるほど、より大胆に独創的になっていく映画監督たちがいる。今年78歳になるアレンもその仲間入りを果たすのか、まだまだ長く楽しませてくれそうだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ローマでアモーレ』は6月8日より新宿ピカデリーほかにて全国公開中。
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