【この俳優に注目】巨匠に愛される元暴れん坊、荒れ放題の20代を経てこれから本番!

『デッドマン・ダウン』で寡黙なヒットマンを演じるコリン・ファレル
(C) 2012 DMD PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『デッドマン・ダウン』で寡黙なヒットマンを演じるコリン・ファレル
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コリン・ファレル

監督、それも巨匠と呼ばれる大御所たちに愛される俳優だ。スティーヴン・スピルバーグ、オリヴァー・ストーン、テレンス・マリック、マイケル・マン、ウディ・アレン。37歳、映画界でのキャリアは15年に満たないコリン・ファレルのフィルモグラフィーには、このほかにもテリー・ギリアムやジョエル・シューマッカーの監督作も含まれている。

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現在、サスペンス・アクションの『デッドマン・ダウン』、犯罪コメディの『セブン・サイコパス』という2本の主演作が公開中だ。前者で演じるのは、妻子を殺された復讐を果たそうとする寡黙なヒットマン。『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のノオミ・ラパス扮する顔に傷を負ったヒロインと築く恋愛だけではない共犯関係、組織のボスや自分を慕う仲間との駆け引きなど、心理描写も細やかな作品で、孤独な男の心のうつろいを繊細に表現している。後者で演じるのはスランプに陥ったハリウッドの脚本家。異様に協力的な俳優の親友に振り回され、いつのまにかマフィア幹部に追われる奇想天外な展開に慌てふためきながら成長する姿をコミカルに演じる。

濃い八の字眉に大きな瞳でちょっと上目遣いの視線は時にセクシーで、時に母性本能をくすぐる愛嬌にもなり、苦悩の果てに覚悟を決めた哀愁を帯びる。どんなシチュエーションを与えられても、すっとそこに馴染む。過去、現代、未来、アメコミの世界でも、あるいはバーコード状の髪で強烈なパワハラを喰らわす男を怪演した『モンスター上司』(11年)のような作品でも、何をやらせてもはまる。ものすごく巧い役者なのだが、それゆえに、あれほど豪華な出演歴を持ちながら、これという決定的な当たり役にめぐり会っていないのも事実。むしろ、20代で脚光を浴びた直後から奔放な私生活を送ったことで、コリン・ファレル=ハリウッドの暴れん坊的イメージが定着してしまった。

アイルランドのダブリン出身で、サッカー選手を目指した後に演技の道に進み、テレビドラマでデビュー。ティム・ロスが監督をつとめた『素肌の涙』(99年)に出演した翌年、『タイガーランド』(00年)でハリウッドに主演作でデビューを果たす。まさに彗星のごとく登場した彼は『ジャスティス』(02年)でブルース・ウィリス、スピルバーグ監督の『マイノリティ・リポート』(同)でトム・クルーズ、『リクルート』(03年)でアル・パチーノと共演を果たし、破竹の快進撃を続けた。突然訪れた名声にのみこまれるように、共演女優やモデルにブリトニー・スピアーズやデミ・ムーアといったスターとの浮き名、ドラッグ、アルコールへの依存、セックス・ビデオの流出、とスターの悪夢のフルコースを30歳になるまでに経験しつくした感がある。

ブレイク前に女優と結婚するも数ヵ月で離婚、交際していたモデルとの間に10歳になる息子、共演したポーランドの女優との間に4歳の息子をもうけている。滅茶苦茶な生活に終止符を打ったのはまさに30歳を迎えた2006年。『マイアミ・バイス』の撮影終了と同時にリハビリ施設入りし、健康を取り戻した。オフに息子たちと過ごす子煩悩な姿はしばしば目撃され、本人も「今は仕事も、父親であることも以前より楽しんでいる。前は全く興味なかったことも楽しめるようになったよ。ヨガとか」とイギリスの「The Observer」紙のインタビューで語っている。

セックス・シンボルでもあるが、あれだけ他者を惹きつけるのは彼自身が愛情深く、相手の胸に飛び込むような人懐こさがあるからだろう。インタビューやトーク番組などで見せる率直さも魅力的だ。英雄の代名詞たるアレキサンダー大王を演じた『アレキサンダー』(04年)で来日した折りのこと。取材時間は限られているが、彼は1つの質問に対して、いろいろ話したいことがあるタイプ。宣伝担当が「回答はなるべく短めで」とお願いすると、彼は「わかった。時間があまりないんだよね。じゃあスピードを上げて話す!」と、あくまでも言いたいことは全部言うポリシーを貫こうとしたのは微笑ましかった。この頃は心身ともに限界に近づいていたはずだが、そんな素振りは感じさせない気さくさだった。

暴れん坊も卒業し、世間の好奇の目からも解放された今、ようやく一役者として勝負する土台が整った。次回作は、トム・ハンクス、エマ・トンプソンらと共演する『ウォルト・ディズニーの約束』。ミュージカル映画『メリー・ポピンズ』の製作背景を描く作品で、コリンは原作者、パメラ・トラバースの父親を演じる。アルコールに溺れて若くして命を落とした父親像を、荒れ放題の20代を送った彼がどう演じるか。来年の日本公開が待ち遠しい。(文:冨永由紀/映画ライター)

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