“タブー”を破ったアフガン女性監督「私たちは沈黙したままではない」
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『明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~』予告編&監督インタビュー
ヴェネチア国際映画祭に正式出品されたアフガニスタン初のインディー映画『明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~』が5月6日から、全国で順次公開される。今回、90秒予告編が公開され、加えて、サハラ・カリミ監督のオフィシャルインタビューが公開された。
同作は、年齢、生活環境、社会的背景が異なる3人のアフガニスタン女性が初めて直面する人生の試練をそれぞれ描いたオムニバス作品。
同作は、アフガニスタン映画機構(Afghan Film)初の女性会長を務める新鋭、サハラ・カリミの長編監督デビュー作にして、ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門出品となった。
タリバン政権下で、女性権利の向上に取り組む「女性問題省」を廃止し、4月23日の女子中等教育再開当日に再び禁止され、女性のみで飛行機に乗ることも禁じられた今、世界が注目する、アフガニスタンを舞台にした女性たちのドラマだ。
問題を解決しようと動く新世代のアフガン女性を描く
公開されたオフィシャルインタビューの中で、サハラ・カリミ監督は「保守的な社会で、このようなタブーについて語りたがらない中で、そのような問題をアフガニスタンで見せるのは簡単なことではありませんでした。でも、私はこれらのタブーを破って、この映画を撮って、アフガニスタンで上映しました。新世代の女性たちは、問題を解決しようと、解決策を探そうとします。母親世代と違って、若い世代の女性は沈黙したままではありません。立ち上がろうとします。これは、現代女性と伝統的な社会との戦いです。この戦いは、現代女性の象徴であるミリアムと、伝統的な社会の象徴である彼女の夫との衝突に見られます。なので、自立したミリアムを通じて、現代女性に関する問題を描きました」と語っている。
『明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~』は、5月6日からアップリンク吉祥寺、5月21日から名古屋シネマテーク、5月27日からシネ・リーブル梅田及びアップリンク京都にて公開されるほか、青森松竹アムゼ、広島の横川シネマでの公開が決まっている。
「“アフガニスタン=テロや爆発”というステレオタイプで描きたくなかった」
■サハラ・カリミ監督オフィシャルインタビュー全文
──監督はアフガニスタン人女性ですが、海外に住んだ時期も長く、アフガニスタンを客観的に見ているかと思います。経歴を簡単にお教えいただけますか?
カリミ:私はアフガニスタン生まれですが、中学卒業後、教育の機会を求めイランの叔父の元へ移住しました。イランで建築家をめざして学んでいたところ、たまたま出演した映画がスロバキアの国際映画祭で受賞し、初めてヨーロッパに行きました。それが縁で2001年にスロバキアへ移住し、大学と大学院で映画テレビ学科の劇映画監督を専攻。博士課程修了後、2012年にアフガニスタンに帰国しました。
──アフガニスタンはいつもテロなどと関連付けられて語られてしまうので、違う映画を作りたかったと聞きました。女性たちの映画を作りたいと思った理由をお教え下さい。
カリミ:アフガニスタンについての映画では、テロや爆発などが取りあえげられる映画が多く、ステレオタイプ化されています。そうではなく、普通のアフガニスタンを見せたかったです。カブールは普通の都市であること、普通の人々の普通の生活があることなどを表現したかったんです。アフガニスタンの女性は、英雄か、被害者・犠牲者として二極化して描かれることが多いですが、普通の女性はその間のどこか、グレーゾーンに位置しています。そういう普通の女性を描きたかったんです。他の国によって製作されたアフガニスタンの映画は、そのようなステレオタイプに陥りがちなので、アフガニスタンのリアルな物語を語りたかったです。国内の各地を旅して見聞きしたことがインスピレーションとなっていて、同作はアフガニスタンで実際によくある女性の物語です。そのため、街の長回しや、服装、食事、家の様子がわかるように撮影しました。
──同作で3人の女性を描かれましたが、この3人の状況を選んだ理由を教えてください。
カリミ:先ほども申し上げましたが、アフガニスタンの各地を回り、色々な女性の話を聞きました。そして、少なくとも社会背景に多様性が出るように、それぞれ違うバックグラウンドを持つ女性たちのことを語りたいと思いました。なので、アフガニスタンの、主婦と、自立した女性と、ティーンエイジャーの状況を見せることにしました。なぜかというと、どうしても見せたかったのは、置かれている状況が違っても、3人とも同じ問題を抱いているということだからです。結局同じところに至るんですね。つまり、家父長制の社会や反女性的な社会に生まれれば、バックグランドは関係ないんです。同じ問題に直面すれば、誰でも社会的背景に関わらず、同じような決断に至るということです。
──アフガニスタン女性にとって同作で描かれている決断をするのはどれくらい大変なことですか?
カリミ:これは物語です。このようなストーリーはアフガニスタンに実在します。色々な人のリアルな人生に基づいたストーリーです。ただのフィクションでも私の頭の中で作り上げた話でもありません。今までも、現在も、これからも。でも、タブーを破ろうとする人がいないから、誰もこの話をしたがらないんです。なので、私はこれについて語りたかったんです。妊娠や母性は選択肢であるべきだと思うから。条件であるべきではないんです。そして、映画というのは、映画という言語を通して、メタファーやシンボルを通じて、上記の問題について語ることができるとても素晴らしいツールなんです。保守的な社会で、このようなタブーについて語りたがらない中で、そのような問題をアフガニスタンで見せるのは簡単なことではありませんでした。でも、私はこれらのタブーを破って、この映画を撮って、アフガニスタンで上映しました。映画が社会の考え方を変化させ、社会の中で対話を生み出す力があると信じているからです。困難ではありましたが不可能ではありませんでした。
──最初に描かれている専業主婦のハヴァの状況は極端ですが、日本でも、自分が家政婦のように扱われていると思っている主婦の方はいます。ハヴァの義理のお母さんは認知症で話せないという設定ですが、その設定は、アフガニスタンの女性は感情を言葉にすることが許されてこなかったということの象徴だったりしますか?
カリミ:そうです。残念ながら、保守的な社会では、どこであろうと主婦達は苦しんでいます。そして自分の権利についての知識と意識がないので、声を上げません。映画に映るハヴァの義母は、上の世代の人間で、障がい者で、話すことができず、コミュニケーションが取れません。アフガニスタンの女性の象徴、特に、声をあげない年上の世代の女性の象徴です。その世代の女性は自分の苦痛や悲しみを言葉にしないでずっと沈黙してきました。背負ってきた数知れない苦難や痛みによる“病”にかかっています。ハヴァも同じような生活を送ってきました。でも、最後には抵抗するんです。小さな抵抗だとしても、罠を取り除こうとします。ミリアムも人生最大の決断をしなければなりません。そして、アイーシャも自分の問題を解決しようとします。だから、この新世代の女性たちは、問題を解決しようと、解決策を探そうとします。ハヴァの義理のお母さんのような母親世代と違って、若い世代の女性は沈黙したままではありません。立ち上がろうとします。たったひとつの単純な、小さな行動でも、ちょっとした解決策であっても、彼女たちは決して消極的ではなく、積極的に動こうとします。家父長制の社会では、楽なことではないです。望ましくない解決策に至ることもあります。でも、自身の自由のためには、何かを犠牲にせざるを得ないのです。
──2番目に描かれるミリアムは、ニュース番組でキャスターを務めるキャリアウーマンです。監督はアフガニスタンで映画の学位を持つ唯一の女性なので、ミリアムにご自身を投影しているということはありますか?
カリミ:(タリバンが戻る前)過去数年間、ニュースアンカーや映画制作者になることは(女性にとって)難しくありませんでした。アフガニスタンの女性たちはとても活発だったんです。でも同時に色々な問題に直面していました。離婚とか、堕胎とか、夫との別居とか。都会の女性、自立した女性は、家父長制社会で特に多くの困難に直面すると思います。私は映画製作者として、自立した女性として、さまざまな困難や問題に直面しましたが、同じような状況にいる女性は多いです。伝統と現代の戦いだからですね。「伝統的な女性」と「現代女性」の戦いです。現代女性と伝統的な社会との戦いです。この戦いは、現代女性の象徴であるミリアムと、伝統的な社会の象徴である彼女の夫との衝突に見られます。なので、自立したミリアムを通じて、現代女性に関する問題を描きました。
──ミリアムは、浮気をした自分の夫にだけでなく、タクシーの運転手にも冷たいですが、アフガニスタンのキャリアウーマンは、そうなのですか?
カリミ:私が思うには、アフガニスタンのような家父長制社会に生まれ、社会と男性達が支持してくれないから、ある種の重圧にさらされ、毎日戦わなければならないので彼女は冷たいのです。ミリアムは離婚しようとしているところで、夫と別居し、すごくストレスを感じています。そのため、アンチ男性的になりました。伝統的な社会や保守的な男性にうんざりしている女性の1人なんです。そのため、こういう女性はストレスを感じているので、攻撃的で、男に対する行動がキツくなります。このような、家父長制社会にうんざりしている女性も、アフガニスタンにいますね。
──ミリアムが読む詩は、イスラム教の女性が読む詩にしてはエロティックですが、あの詩はどなたが書いたのですか?
カリミ:カナダ在住のアフガニスタンの女性詩人、ジーナ・ヌールによって書かれた詩で、この詩を映画のあのシーンに使いたかったんです。エロティックなんですけど、同時に女性性や愛されることへの願望についての詩なので。そこで、ミリアムが彼女の人生で最も厳しい時間を過ごすあの夜、とても難しい決断をしなければならないシーンに使いたかったのです。それに孤独さの中、どうにかミリアムは自分を落ち着かせようとしますが、詩はそれにも役立ちますから。私が描きたかったのは、ミリアムのような女性がアフガニスタン社会で孤独な時間を過ごすことがあるけれども、詩を読むことが救いになるということです。ミリアムは慰められます。
──3番目の女性アイーシャは、宗教の関係で、3人の中で一番日本と違う状況です。
カリミ:ティーンのアイーシャが、会ったこともないブサイクな人と結婚させられるなどともっと酷い状況にすることもできたかとは思いますが、婚約者を子どもの頃から知っている、優しくてハンサムな人にした理由はどこにありますか? 私の映画に出てくる男、たとえばハヴァの夫や義父は、問題がありますよね。女性のことを考えない男たちです。ハヴァのことを考えない、自分の関心や友人、友人との飲み会、パーティーにばかり一生懸命な男たちです。ミリアムの夫は、映画の中で姿も見えないし、声さえ聞こえません。不在なんです。不在で、そこにはいないのですが、彼の存在は感じられます。しかし、アイーシャの物語には、新世代の、今までとは違う男性像をおきました。彼らは、異なります。女性に優しい、女性をサポートできる男性です。アイーシャの弟も、お隣に住んでいるハヴァを手伝いますよね。男性の暗い面ばかり見せたくなかったのです。アイーシャのパートでは、新世代の男性の中には、女性を愛せる、女性を信じる男性がいる、ということを描きたかったです。また逆に、アイーシャみたいに、男性の愛を利用する女性、少女もいます。なので、ある意味でバランスですよね。「男は悪、女は善」ということではないです。それに、「女性はみんな犠牲者で、悪いことをするのは男たちだけだ」というステレオタイプを繰り返したくなかったんです。
──同作のキャスティングについて教えてください。
カリミ:私は素人を起用したんです。ハヴァを演じたのは私の親友でフィンランドに住んでいるので、アフガニスタンに来るようお願いしました。ミリアムはスポーツウーマンで、いくつかの映画に出たことがあります。アイーシャはプロの女優です。でもそれ以外、みな素人で、プロの役者ではないです。色々な場所で見つけた人々に出てもらうことにしました。
──同作はアフガニスタン初のインディペンデント映画だと聞きました。アフガニスタンでインディペンデント映画を作るにあたって難しかった部分を教えてください。
カリミ:インディペンデント映画を作る時の一番の挑戦は資金です。私には十分なお金がありませんでしたから。お金があれば、もっとちゃんとした作り方をしたでしょう。そして、インディペンデント映画を作る場合は、全て1人の肩にのしかかってきます。映画監督だけではなく、プロデューサーや脚本家など、全ての役割をする必要があります。なので、資金的にはとても大変でした。でもこの映画をどうしても作りたかった。もし助成金を申請したりすれば、アフガニスタンのステレオタイプを繰り返す映画を期待されるんじゃないかと思いました。でもそれは撮りたくありませんでした。自分の映画を作りたかったので、インディペンデントでいくことにしました。そして、途中で、カタユーン・シャハビという(女性)プロデューサーが参加しました。アフガニスタン内で作られた数少ないインディペンデント映画の一つですし、(タリバン政権が続けば)最後の映画になるかもしれません。
──同作は19年に作られましたが、21年にタリバンがアフガニスタンを制圧しました。女性たちの状況は本作品で描かれている状況からどのように変わりましたか?
カリミ:この映画に出た人はみんな、アフガニスタンを去りました。タリバンの再支配によって、状況は永久に変わってしまったんです。女性達の状況は、再び石器時代に押し戻されてしまいました。学校に行けないし、映画にも出られないし、仕事もできません……。女性をめぐる状況は悪化の一途をたどっています。私は、同作のような映画を、アフガニスタンでは、タリバンが存在する限りもう撮ることができません。本当に何もかも変わってしまったんです……。この20年間で前進し達成されてきたたくさんのものが失われたんです。
──同作のどの部分が日本人の観客に興味を持ってもらえると思いますか?
カリミ:女性に関する問題は大概、世界中で同じようなものなんですけれども、対するアプローチやハードルのレベルが異なります。アフガニスタンのような家父長制社会の中で育ってきた女性は、女性を守るシステムや法律がないから、自分の権利や他の色々なもののために、戦わなければならないです。日本でもきっと女性に関連する問題がたくさんあると思いますが、少なくとも、女性を守る法律もあるでしょう。でも、きっと、似たような問題を抱えているはずです。ただ、その困難さや、方向性が違うだけです。でもきっと日本の上の世代の女性はハヴァにとても同感できると思います。特に地方に住んでいる女性たちは、ハヴァと同じような生活を送ってきたかもしれません。都会の女性や、自立した女性やパワフルな女性は、どこであっても何らかの困難や問題に直面しがちだと思います。
──最後に読者にメッセージをお願いします。
カリミ:読者の皆様、映画館にお越しいただいて私の映画をご覧いただき、アフガニスタン、アフガニスタンの女性とアフガニスタンのリアルなストーリーを支持していただけたらうれしいです。
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