『アメリカン・ハッスル』
3月2日(現地時間)発表の第86回アカデミー賞で最多10部門にノミネートされた『アメリカン・ハッスル』は、1979年にアメリカの大物議員が次々と摘発された収賄事件(アブスキャム事件)の実話を脚色した作品だ。ニューヨークが舞台で詐欺師とFBIが登場する設定は、マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』にもちらりとかぶるが、こちらは金と欲に加えて男女の情が絡んでくる。
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銀行融資の手数料を騙し取る手法で荒稼ぎしていた詐欺師(クリスチャン・ベール)とその愛人(エイミー・アダムス)がFBIに逮捕され、捜査官(ブラッドリー・クーパー)によって、釈放をエサにおとり捜査に駆り出される。同業者逮捕に協力すれば済むはずだった。それがいつの間にか政治家の汚職摘発という大事に発展、当時カジノの設立に向けて開発が進むニュージャージー州カムデンの市長(ジェレミー・レナー)を標的に定める。アラブの大富豪の出資話を持ちかけてカジノ利権に群がる政治家とマフィアの逮捕を目論むが、情緒不安定でキレやすい詐欺師の妻(ジェニファー・ローレンス)が鼻を突っ込み、引っかき回したことから事態は思わぬ方向へ、という物語だ。
監督は『世界にひとつのプレイブック』(12年)のデヴィッド・O・ラッセル。『ザ・ファイター』(10年)のベールとアダムス、『世界に〜』のクーパーとローレンス、と過去作の主要キャストを勢ぞろいさせた本作は、いつも以上に登場人物の濃いキャラが前面に出てくる。特に、異様なまでの迫力なのが第71回ゴールデン・グローブ賞で主演賞、助演賞に輝いた女優2人。とにかく女がすごいのだ。詐欺師の夫も閉口する屁理屈と予測不能な行動力抜群の妻と、胸元全開のエロくて頭の切れる愛人。彼女たちの度胸と気の強さが物語を動かしていく。対するのは髪が命の男たち。カツラでハゲ隠しに腐心するビール腹の小悪党は詐欺師のくせに終始ビビりまくり。野心満々で慌てん坊の捜査官は自宅でパンチパーマのメンテを欠かさない。そしてリーゼントの市長だ。
ユダヤ系、イタリア系、イギリス人のふりをする田舎娘、アラブ人のふりをするメキシコ系、という多様な民族性のスパイスも効いている。誰が誰を騙すのか、騙されるのか。そんな人の悪さと同時に、悪に徹しきれない彼らの甘さが愛おしさを誘う。サバイバルという名の芸術と名声を追う虚栄心、意地と愛情のせめぎ合いが織りなす人間模様で見せるサスペンスであり、コメディ。
FBI捜査官の上司が延々と氷上釣り話のオチを引っ張るのは、三谷幸喜がかつて様々な作品で多用した「赤い洗面器の男」の小咄みたいだし、エルトン・ジョンにドナ・サマー、「死ぬのは奴らだ」、アラビア語詞の「ホワイト・ラビット」など、音楽の選曲もわかりやすい目配せで、演出そのものもちょっとあざとい。だが、それも含め、全てにおいて過剰なことが本作の魅力なのだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『アメリカン・ハッスル』は全国公開中。
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