トム・クルーズの真骨頂! 『トップガン』の世界を信じさせるエンターテインメント魂に感服
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“一匹狼”マーヴェリックが教官としてカムバック!
【週末シネマ】80年代ハリウッド大作を象徴する1本であり、トム・クルーズを10代のアイドルからトップクラスの映画スターにのし上げた『トップガン』(86年)の続編がついに完成した。
『トップガン マーヴェリック』は、前作の主人公マーヴェリック(クルーズ)がかつて自身も腕を磨いたアメリカ海軍のエリート航空戦訓練学校「トップガン」に教官として戻ってくるところから始まる。
・トム・クルーズ、カンヌで5分間のスタンディングオベーションに感極まる
“マーヴェリック”とは主人公ピート・ミッチェルのTACネーム(各パイロットの非公式愛称)で、一匹狼を意味する。戦闘機パイロットとして超一流の技術を誇りながら、常識破りな性格ゆえに組織からはみ出してしまうマーヴェリックは、父親と親友を空で亡くした過去を持ち、彼が受け持つことになった訓練生の中にはその親友グースの息子・ルースター(マイルズ・テラー)もいた。
“古き良き時代”の王道演出ながらも現代的にアップデート
冒頭から、36年前の『トップガン』をなぞるような場面が次々と登場する。滑走路を疾走するバイク、ビーチで球技に興じる若者たち……一体これはいつの時代の物語? と一瞬思う。バーに集う若いパイロットたちの会話や振舞い、演奏する音楽(これにはれっきとした理由がある)。どれをとっても彼らの親世代、つまり36年前のマーヴェリックたちが若かりし日の様子を見ているようだ。80年代が「古き良き時代」になり、ミレニアル世代の俳優たちが先達の型を演じる伝統芸能を見るような感覚。全編通して、あの時代に作られたハリウッド映画の王道演出を臆面もなく堂々と見せる。これが面白い。
では、アナクロニズムに徹しているかといえば決してそうではなく、優秀なパイロットたちの中でトップを争う1人は女性だ。1作目の製作時に米軍では女性の戦闘飛行は認められていなかった。今回、モニカ・バルバロが演じる“フェニックス”に紅一点的な役割を持たせず、グースや、前作でヴァル・キルマーが演じたアイスマンに匹敵するキャラクター“ハングマン”(グレン・パウエル)と同列に、いい意味でワン・オブ・ゼムとして描く。マーヴェリックと共にある極秘ミッションに携わるチームのメンバーは人種も多様で、前作からの時代の変化をアップデートしている。
アイスマンも続投、空中戦はスリリング!
若い俳優たちの他に、海軍基地近くのバーを経営するシングルマザーのペニー役でジェニファー・コネリー、海軍少将役でエド・ハリス、海軍中将役でジョン・ハムが出演する。マーヴェリックのかつての同僚で、その後はエリート街道を邁進したアイスマンも登場する。前作から続いてヴァル・キルマーが演じるアイスマンの存在は本作をエモーショナルに盛り上げる。
クライマックスの空中戦ではクルーズをはじめキャストたちは実際に戦闘機に登場して飛行シーンを撮影した。敵との攻防はアクロバティックな映像の連続でスリリングだ。
恋愛パートを担うのも、クルーズとジェニファー・コネリー
荒唐無稽スレスレの展開もあるが、緊張感の中に思わず笑える瞬間を差し込むのは忘れない。サービス精神にあふれ、スリルと情熱の物語にロマンスとユーモアも織り込む。恋愛パートを担当するのはルースターたちの若い世代ではなく、マーヴェリックとペニーだ。家族が留守の恋人宅で逢瀬をしていると、突然帰ってくるのは恋人の両親ではなくて、彼女の10代の娘なのだ。
前作を見たことがなくても、トム・クルーズという俳優を知っていれば楽しめる。だが、前作を知っているならば、いろいろ発見する面白さがある。文字通りに体を張り、トム・クルーズというパブリックイメージも全て注ぎ込むエンターテインメント魂には素直に感服する。
真っ直ぐな演技と情熱が夢物語にリアリティを与える
監督は『オブリビオン』のジョセフ・コシンスキー、脚本には『ミッション:インポッシブル』シリーズや『アウトロー』の監督で、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』などの脚本も手がけたクリストファー・マッカリー(兼製作)も名を連ね、近年のクルーズの仕事の右腕というべき人材が、唯一無二のスーパースターの魅力を存分に活かした快作だ。歳を重ねても現場に留まることを選び、軍人としての昇進を棒に振ってでも我が道を行くマーヴェリックの姿は、そのままクルーズの積み上げてきたキャリアにぴったりと重なる。
何一つ現実的ではないのに、『トップガン』という世界のリアリティがある。真実とするには出来過ぎなくらいの、夢だとは一度も言わない夢物語のような世界だが、真っ直ぐなクルーズの演技が全てを信じさせる。シニシズムの欠片もない情熱と潔さはトム・クルーズの真骨頂だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『トップガン マーヴェリック』は、2022年5月27日より全国公開。
[お詫びと訂正]
小見出し「恋愛パートを担う~」の本文2行目に誤りがありました。「恋愛パートを担当するのはグースたち」の部分は、正しくは「恋愛パートを担当するのはルースターたち」です。お詫びいたしますとともに、訂正いたしました。
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