【週末シネマ】超一流の社会派エンターテインメントに仕上がったハリウッド版ゴジラ

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『GODZILLA ゴジラ』
(C) 2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC
『GODZILLA ゴジラ』
(C) 2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC

『GODZILLA ゴジラ』

第1作から60年、日本が世界に誇るあのゴジラがハリウッドでリメイクされた。一足先に公開された全米で記録的な大ヒットとなり、その後も世界各地で興収No.1を記録した『GODZILLA ゴジラ』がついに日本で公開される。

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イギリスの俊英、ギャレス・エドワーズ監督をはじめ製作陣はテーマを「リアル」と定めて、1954年に作られたオリジナル版の精神を2014年が舞台の本作に昇華させ、全長100メートルを超える怪獣が大暴れする3Dモンスター映画にして社会派エンターテインメント、とも呼ぶべき深い内容を携えている。

主人公のフォード(アーロン・テイラー=ジョンソン)は米軍の爆発処理班の隊員。かつて日本で原子力発電所に勤める両親と暮らしていたが、15年前に発生した原発事故で母(ジュリエット・ビノシュ)を亡くし、真相究明のために日本に留まった父・ジョー(ブライアン・クランストン)とは疎遠になっていた。ある日、任務を終えて妻子の待つわが家へ戻った彼のもとに、ジョーが事故後の立入禁止地域に入り逮捕されたと連絡が来る。フォードは直ちに日本へと向かうが……。

とにかく気配の演出が見事。何かが来る、起きる前の不穏な静けさが秀逸だ。高層ビルを軽くまたぐ巨大な怪獣同士の闘いのなかに、豆粒ほどの大きさの人間たちが確かに存在することを実感させる。大人の目で見る怪物、子どもの目で見る怪物、その主観の違いを表現する映像に見入る。阿鼻叫喚を、怪獣同士の死闘を全部見せず、想像させることで恐怖をかき立てるのは、監督の前作にしてデビュー作『モンスターズ/地球外生命体』に通じるスタイルだ。ゴジラの登場から去り際まで、心憎いまでに完ぺき。名前のスペルに“神(GOD)”が組み込まれた怪獣に対する畏れの感覚が自然への畏怖と重なる。

もう1つ印象的なのは、テイラー=ジョンソンが演じるハリウッドのブロックバスター史上最も地に足の着いた(と思われる)主人公だ。20代の彼はヒロイズムに酔いしれることで自らを鼓舞しない。家族と生きることを何より重んじる。彼も、サンフランシスコで彼の帰りを幼い息子と待つ妻(エリザベス・オルセン)も、ヒステリックにならず、無用のヒロイズムにも溺れず、だが自らの役割を放棄せず、目の前の脅威にしっかりと対峙する。普通の人々の賢明で堅実な、危機との向き合い方が感動的なのだ。

テレビシリーズ『ブレイキング・バッド』のブライアン・クランストン、国際的に活躍するジュリエット・ビノシュ、『ブルー・ジャスミン』のサリー・ホーキンス、『リンカーン』のデヴィッド・ストラザーンといった実力派のベテランが脇を固める。渡辺謙が原発事故発生と同時期にフィリピンで巨大生物の化石を発見、寄生していた胞子と事故の原因となった振動との関連を追究する生物学者・芹沢を演じている。

登場するアメリカの地名は実在のものそのままなのに、事故の起きた日本の地名だけは全然らしくもない架空なのは配慮だろうが、せめて響きだけはそれらしく思えるものを考案してもらいたかった。その他、芹沢博士の年齢など所々に疑問が湧く描写は出てくる。だが、その矛盾を犯してでも伝えたかったものがあるのだ。余計な説明をせずに、最小限の事実を告げるその場面を作り、本編に残した意義は大きい。

気楽に楽しむ夏休み映画とは言えないかもしれない。だが、リアリティある設定で繰り広げられるスリルとサスペンスで鷲掴みにされ、荘厳な生命の物語に心を揺さぶられる。見逃すことはできない超一流のエンターテインメント作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『GODZILLA ゴジラ』は7月25日より公開中。

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