窮地もありのままに見せる大富豪。愛すべき人間性を描く秀逸ドキュメンタリー
『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』
ラスベガスの大富豪夫妻がアメリカ最大の大豪邸建設に着手、その過程をカメラで追うはずが、2008年のリーマン・ショックに見舞われて建設計画は頓挫。『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』は図らずもそのてん末に密着することとなったドキュメンタリーだ。
・[動画]『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』予告編
“主役”のデヴィッド&ジャッキー・シーゲル夫妻は30歳以上の年齢差のある再婚同士。デヴィッドはタイムシェア(共同所有)のリゾートマンション物件を扱い、一代で財を築いた男。ブロンドでナイスバディのジャッキーは前の結婚時にミセス・フロリダに輝いたアメリカン・ビューティー。2人は2000年に結婚し、双子を含む7人の子供をもうけ、10代の姪を養女に迎え、2,500平米の邸宅に暮らしている。今のままでも十分な大豪邸でやりたい放題の無計画な浪費を繰り返す前半は、確かに呆気にとられるが、その極致がフロリダで建設中の大豪邸なのだ。
総工費100億円、ベルサイユ宮殿を模した8,500平米の新居建設はテレビニュースで報じられるほどの話題を呼んだ。6割近く完成した建設現場を訪れ、セレブ・マダムの友人を案内するジャッキーは得意げで、すでにベルサイユの女王然としていたが、ほどなくして世界を震撼させた経済危機、リーマン・ショックが起きる。デヴィッドの会社は一瞬にして巨額の負債を抱え、豪邸建設どころではなくなる。
危機的状況にあっても、何とか踏み留まろうと画策を続ける夫。深刻な事態にうすうす気づきながらも生活レベルを落とせない妻。使用人の数も減って荒れていく豪邸に暮らし、醒めた目で義理の親を見ている10代の少女、母国に残した家族のために雇主のわがままにも従順なハウスキーパーの女性たち。そしてデヴィッドと前妻の間に生まれ、父の事業を手伝っているジャッキーと同年代の息子。それぞれが濃い背景を持っているが、皆カメラの前では驚くほど赤裸々だ。
栄華を誇るイケイケ状態を悪びれずに見せつける。下り坂になると、広すぎる邸宅で掃除も行き届かずゴミ屋敷寸前の状況も、金策で追いつめられた夫と妻の間で生じる亀裂も隠さない。最近流行の“ありのまま”の究極だ。そこから見えてくるのは、アメリカン・ドリームとは努力と勤勉さが鍵ということ。巨万の富を得てもおっとりしないハングリーな強さは窮地に立ったときこそ真価を発揮する。悪趣味な贅沢三昧を半笑いで見ていたはずが、みっともなさもさらけ出す率直さにいつの間にか引き込まれている。人間の愛すべき様子をそのまま描いた秀逸なドキュメンタリーだ。
『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』は8月16日より全国順次公開中。
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