『TOKYO TRIBE』
見る者をひと時も飽きさせない超エンタメ作品
竹内力の演じるヤクザの大ボス=ブッバ、窪塚洋介によるその息子=ンコイ、鈴木亮平が体当たりで演じる“最狂”の男=メラ、華麗なアクションシーンに驚かされる清野菜名=スンミなど、この『TOKYO TRIBE』には個性的すぎるキャラクターが多数登場するが(園監督作品には欠かせない“でんでん”ももちろん出てます)、それぞれの役柄にマッチしたリリックとビートが与えられ、物語と有機的に絡み合う。ドラマ部分とラップ部分のつなぎもスムーズで、ミュージカル映画にありがちな違和感はまったくない。
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「TOKYO TRIBE2」の映画化の話を持ち込まれた際、原作にもヒップホップにも予備知識のない園監督は、いったんこの企画を断ろうと思ったという。しかしラップのリリックやトラックメイキングを含む音楽制作全般、そしてそれに相応しい世界観の構築をすべて専門家に“丸投げ”するという方向に発想を転換。ヒップホップやストリート・カルチャー、彼らの諍いをクールな視点で見つめることで、ミュージカルとして絶妙なバランスを持った作品に仕立て上げている。
まず音楽面では、ラップ監修をソロ・アーティストとしてアルバムも発表している日本人ラッパー、EGOが担当。染谷将太ら役者陣へのラップ指導やリリック提供を行なっている。本作では実際のヒップホップ・アーティストを役者として複数起用していることも話題だが、EGOも本人役で劇中に登場している。劇中のラップは園監督の書いた脚本をベースに、役者とEGOら本物のラッパーが相談しながら仕上げたという。ラップ部分のほとんどはリアルタイムで演技と同時に録音されており、それも作品のスピード感や鮮度に一役買っている。ちなみにメラと対立する海(カイ)を演じ、鈴木亮平とダブル主演の大抜擢となったYOUNG DAISは、1000人を超える一般オーディションから勝ち上がった北海道出身のラッパーで、これまで2枚のソロ・アルバムもリリースしている。劇中はもちろん、主題歌「HOPE – TOKYO TRIBE ANTHEM」でも得意のバイリンガル・ラップを披露している。
音楽監督としてサウンドトラックを手がけているのは、プロデューサー・チームのBCDMG(Big Crow Dog Music Group)。2013年に初のBCDMG名義のファースト・アルバム「Ordinary Life」をリリースしている。チームとして、ソロとして、日本のヒッピホップ界で数えきれない作品をプロデュースしているが、特にリーダー格のJASHWONは昨年公開の映画『HO〜欲望の爪痕』にも音楽協力として参加するなど、幅広く活動している。トラックによってフィーチャリング・ラッパーを迎えて楽曲制作をするスタイルを取っている彼らだけに、本作でもキャラクターやシチュエーションに合わせて変幻自在に様々なトラックを提供している。すでにリリースされたサウンドトラックは、そんな彼らの引出しの多さがうかがえる恰好のコンピレーション・アルバムとしても楽しめるはずだ。
そして美術監督を担当したのは、『寄生獣』などを手がける林田裕至。かねてから親交のあった園監督と林田は、「いつか石井聰亙の『爆裂都市』のような世界を作ろう」と話していたらしく、奇しくも本作でそれが実現したとしている。近未来の東京という設定ではあるものの、どこにも存在しないような混沌した街を、どぎつい造作と色調で見事に視覚化している。
とても高い次元ですべての要素が結びつき、見る者をひと時も飽きさせない“超エンタメ作品”に仕上がっている『TOKYO TRIBE』。以前、ムビコレTVで紹介した完成披露イベントの動画(http://moviecollection.tv/interview/14988)で、鈴木亮平は本作を「刺激の洪水」と評していた。実際に目にすれば、その表現が決して大げさではないと理解できるはず。ぜひとも劇場でこの衝撃作を“目撃”してほしい。(文:伊藤隆剛/ライター)
『TOKYO TRIBE』は8月30日より新宿バルト9ほかにて全国公開中。
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