(…前編より続く)ラッパーを主人公にした映画なのに、劇中にほとんど音楽(=ヒップホップ)が流れないし、バックトラックに合わせたまともなラップ・シーンも出てこない。それでも“音楽映画”として強烈な印象を与えるところが『SR』の新しさだだった。
・『日々ロック』公開間近! 入江悠監督が『SR』シリーズで与えた衝撃/前編
そもそもこの1作目ではヒップホップがカッコいいものとして扱われていないし、IKKUに特別ラップの才能があるようにも見えない。そういう意味で『SR』シリーズは、同じヒップホップを扱った日本映画でも『TOKYO TRIBE』や『サウダーヂ』、ましてや『チェケラッチョ』とは全然成り立ちが違う。音楽が話の中心に据えられていないのに、結果的に音楽映画としか言いようのない作品になっているのは、音楽(ここではヒップホップ)の鳴っていない部分に登場人物たちのリアリティが感じられるからだ。主人公が言葉や形にできない思いを抱えてジタバタするという点では、田口トモロヲ監督の『アイデン&ティティ』あたりがテイストとしては近いかもしれない。この映画はヒップホップではなくてロック・バンドをやる主人公の話だが、限りなく悲惨でありながら最後に少しだけ見える希望を淡々と描いているところに近い後味を感じさせる。
超低予算で作られた自主制作映画『SR』が高く評価された結果、その後の『SR2』『SR3』ではある程度予算が増えたことも関係しているのだろう。シリーズは回を重ねるたびに音楽シーンが多く、そしてエンタメ性が強くなり、登場人物たちのラップも本格的なものになっていく。特にIKKU役の駒木根隆介やTOM役の水澤紳吾、そしてMIGHTY役の奥野瑛太のラップは『SR』からかなりの上達ぶりで、本業が役者なのかラッパーなのか分からないほど自身満々なものに進化している。それに合わせるように彼らの後ろでビートを刻むバックトラックも、回を重ねるごとに存在感を増す。これは明らかに音楽監督の岩崎太整による絶妙な“さじ加減”のなせる業だ。アーティストのプロデュースや『モテキ』などの映像作品、それに企業のサウンドロゴまでを幅広く手がける職人的な人だけに、役者たちのラッパーとしての成長に合わせて音楽のクォリティを自在にコントロールしている。
個人的には、入江悠監督にも“職人”というイメージを持っていたりする。『SR』から『SR2』、『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』、そして『SR3』へと続く入江悠監督の映画づくりを順に見返してみて思うのは、実は意外と(?)求められているものを差し出すことに長けた人なのではないかということ。作りたいものを情熱の赴くままに作っているようにも見えるが、フィックスや手持ちで執拗に長回しで撮る手法には、クールな傍観者の視点が含まれている。それをもっとも強く感じさせる作品が『劇場版 神聖かまってちゃん』だ。これについてはまた次週のこのコーナーで触れたいと思う。(文:伊藤隆剛/ライター)
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