(…前編から続く)自宅からのライヴ・ストリーミングやYouTubeなどへのPV配信で話題を集め、現在はメジャー・レーベルでコンスタントに活動する神聖かまってちゃんだが、世間的に知られるのはやはりその“お騒がせ言動”の数々だ。中心人物、の子がライヴ中にカミソリで自傷して出血しながら演奏し、観客の数人が失神。メンバー同士がライヴ中&ストリーミング中に殴り合いの大喧嘩。同じくライヴ中にの子が放尿。音楽番組出演中に、の子が口に含んでいたナルトをカメラに貼付ける。他のバンドやアーティストへの挑発的なツイート。デートの様子をストリーミングで公開などなど。
・『日々ロック』公開特集!『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』に見る入江悠監督の底力/前編
彼らを特別な存在として祭り上げるためのエピソードならいくらでもあるのだが、入江監督はそういったディティールを拾い上げることはせず、単に“強い影響力を持つ、ネット配信時代の新たな才能”としてバンドを扱っている。そのため普段ネットでチラ見するだけでは伝わってこないこのバンドの音楽性やメッセージが、見る者に素直にまっすぐ届く。監督自身がこのバンドに対して特別な思い入れを持っていないのだろう。そう思わせる適度な距離感によって、神聖かまってちゃんというバンドの本質を却ってあぶり出している。
キャスト陣では、本作が映画初主演となる二階堂ふみのトンガった女子高生ぶりがやはり光っている。『日々ロック』でも“ロックなアイドル”として歌やダンスを披露しているが、そんな彼女の素地が本作でもすでに十分生かされており、入江監督作品との相性のよさが格別であることを実感できる。本人役で登場する神聖かまってちゃんマネージャー=劔樹人の醸し出す雰囲気も印象的だ。彼がかまってちゃんの言語を翻訳する“通訳者”のような役割を果たしていることが、本作を見るだけでもよく理解できるはずだ。
ラッパーや実在のロックバンドを描いてきた入江監督が『日々ロック』で取り組んだのが、人気コミックの映画化。音楽映画を作り続けてきた監督本人が「これ以上の音楽映画はもうしばらく作れないかも」と語るこの映画は今週22日から公開の予定。本コラムでも公開日に特集記事をお送りする予定だ。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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