『サバカン SABAKAN』草なぎ剛インタビュー

映画の脚本は読んでない!? その理由とは…

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草なぎ剛

めちゃガチで作りました。僕の涙待ちしたりして

1986年夏、長崎の小さな町に暮らす小学5年生の久田とクラスメートの竹本は“イルカを見るため”に小さな冒険に出かける。演技初挑戦の子役2人、番家一路と原田琥之佑が主人公を演じる『サバカン SABAKAN』は、ドラマ『半沢直樹』(20年)の脚本なども手がける演出家・金沢知樹の初監督映画だ。当初、草なぎ剛によるラジオドラマとして企画された物語は、金沢自身の少年時代がベースになっている。

『サバカン SABAKAN』
2022年8月19日より全国公開 (C)2022「SABAKAN」Film Partners

映画で草なぎが演じるのは、大人になり、忘れられない夏を懐かしむ久田だ。これまで何度か取材してきたが、草なぎの明るさ、何事も大仰に構えない軽やかさ、さりげない配慮と優しさは変わらない。作品への思い、彼自身の少年時代の夏の思い出からサバ缶を使ったレシピまで、たっぷり語ってもらった。

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──ラジオドラマとしてまず作られかけたものが、むしろ映画に、というのは珍しい流れだと思いました。

草なぎ:そうですよね。

──映画化すると聞いた時、どう思われましたか?

草なぎ:あ、嬉しいって、まず思いましたね。読んだ時にすごく手応えを感じて、すごいいい本だったので、それが無くならなくてよかったなって。映像にするにはどういう感じかな?と期待感が膨らんだし、とにかく嬉しかったですね。

──ラジオと映画では、脚本の内容は少し違ったのでしょうか?

草なぎ:映画の脚本は読んでないんです。

──え?

草なぎ:もらったけど、内容はもう分かってるから。だから、読んでないです。

──本当ですか? 素人ながら、大人になった久田というのは難しいポジションに見えて、いろいろ考えられたのではと想像していました。

草なぎ:台本読んでなかったから、よかったんじゃないですか、ちょうど(笑)。いやいや、本当に。何も考えてないですね。監督のこともよく知っていたし、セリフも現場で監督が言ってくれて、それでやりました。たぶん、その感じがよかったんだと思う。だって本編は子どもが主役でやっているから。僕の役は、そこからもうかけ離れたところで大人になっている感じです。だから「現場に入って監督がセリフを言ってくれたら、僕はそれオウム返しのようにやるから」と。今回に限っていえば、それが狙いでもあったというか。素朴な感じが出ていたのは、もしかしたらそのおかげかもしれない。

──確かにおっしゃる通り、素朴で自然な印象を受けました。
草なぎ剛

草なぎ:よかった(笑)。もともとラジオドラマのほうでは僕の役はなかったんです。

──大人になった久田のキャラクターですか?

草なぎ:そう。ただ、僕はラジオドラマで全編読んだのに、映画化する時にャスティングされてないと怒るんじゃないかと思われて(笑)、あえて書き加えられた役なんですよ、これ(笑)。

──そうなんですか?

草なぎ:絶対そうだと思う(笑)。

──草なぎさんには何度か取材をさせていただいていますが、出演映画についてお聞きすると、いつも「ノープラン」「役作りをしない」とおっしゃいます。現場の雰囲気から役を作るというか、演じていらっしゃるかと思いますが、今回のように出演シーンが多くない場合は、雰囲気や空気を掴み取るのは難しそうです。

草なぎ:そうですね。長崎の撮影は、みんな1ヵ月以上やっていてチームが出来上がっている中に入っていったので。合流したら、「みんな仲いいな。うらやましいな」と感じました。でも、さっきも話したように監督とラジオドラマを作り上げた経験があったので、そこが僕の中でリハーサルになっていたというか。それがあったからすんなりできたかな。それは作品全体についても言えると思うんだよね。途中から参加したけど、「ていうか、俺はもう、みんな知っているから。どの役についても、物語も」みたいな、ね(笑)。ラジオドラマを作った過程があったから、監督自身もいろいろ構想を練れたと思うんです。一度ガチで録っているから、それを骨格として作れたんじゃないかな。僕自身もそうだったし。撮影していて、これはいい作品になる、と思えた。

──ラジオドラマも、しっかり作られたんですね。

草なぎ:もう、めちゃガチで作りましたよ。僕の涙待ちしたりして。ヒサちゃんとタケちゃんの印象的なシーンなんて、声が震えちゃって。でもナレーションだから、そこまで感情込めちゃうとちょっと違ってくると言われて、「ちょっと待ってください。5分待って」とか。それが「無しになりました」と言われた時はズッコケちゃった(笑)。でも、そのおかげで、いい映画が出来たと思います。

おすすめのサバ缶レシピは……

──金沢監督は久田と竹本2人のうちどちらも自分を少し投影されているそうですが、草なぎさんは2人のどちらか少年時代の自分に何か重なるものって感じたりしましたか。

草なぎ:ヒサちゃんかな、やっぱり。子どもの頃はタケちゃんみたいなガキ大将っぽい子がたくさんいて、僕はどっちかというと、そういう人に引っ張られるタイプだったので。元気ではあるんだけど。

──ヒサちゃんも、タケちゃんに引っ張られるとはいえ、ちょっとお調子者なところもある楽しい男の子です。

草なぎ:結構似てます。自転車こいでどっかへ行きたいと思ってたし。その時代はそういう子は多かったですよね。だからか、すごく身近に感じられる役でした。

──ヒサちゃんたちと草なぎさんは同年代ですね。
草なぎ剛

草なぎ:1986年は僕も小学生でした。

──翌87年、中学1年の時に芸能界に入ったということは、86年の夏休みは草なぎさんにとっては、普通の男の子としての最後の夏休み。今にして思えば、特別な時間だったかな、と。

草なぎ:そうですね。この映画と重なるかもしれない。

──小学校6年の夏休みの思い出はありますか。
草なぎ剛

草なぎ:ずっとお菓子を食べてましたね(笑)。夏休みは駄菓子屋でお菓子買って、なくなったら親に小銭もらってお菓子買って、食べながらファミコンして。

──インドア派だったんですか?

草なぎ:外にも出かけました。お菓子食べてファミコンして外へ行って、またお菓子食べて家帰ってファミコンして外へ行って(笑)、夕方になってきちゃって「ああ、もう夜か、外行けないよ〜」って(笑)、そういう感じ。

──その頃はまだ芸能界に行きたいとは思っていなかった?

草なぎ:僕、少年隊が大好きで、テレビの歌番組を見ていました。だから、ちょっと思ってたな。「俺もテレビ出たいな。少年隊、超カッコいい! ヒガシ(東山紀之)になりたい」と思ってました。

──今の草なぎさんのご活躍を見ると、当時思い描いていた未来に近いというか、それ以上のものという気もします。

草なぎ:確かに初めて就いた仕事がこの世界で、夢を描いたとおりに歌って踊ってテレビには出たんですけど。夢はかないつつも、自分が思っていたものとはちょっと違うなと思ってました。

──というのは?

草なぎ:少年隊が好きすぎて。僕は少年隊になりたかったんですよ。だから「少年隊とは違うな、俺」と思ってました(笑)。だけど、毎日楽しいし。子どもだったので、本当に右も左も分からず、楽しい方向に思うがまま突き進んでいった87年、88年だったかな。すぐにテレビ番組も出たんですけど、立ち位置とかも何も分からなくて画面から外れちゃったりして、それでプロデューサーさんに指導されるのも楽しくて。ロケで遊園地に行ったり、地元で遊んでいた頃とは明らかに違う、激動の変化を経験しつつ、その頃もお菓子食べていました(笑)。

──お菓子が大好きなんですね。

草なぎ:大好きだった(笑)。

サバカン SABAKAN

──映画の話に戻りますが、主人公を演じた2人はまさに、今お話してくださった当時の草なぎさんのような状態だったかなと思います。今回が初めての演技で、『ミッドナイトスワン』の服部樹咲さんを思い出したりもしました。

草なぎ:今回は2人と一緒に演じてはいないですが、やっぱり素晴らしいですよね。何かにじみ出てくるものがある。演技って経験があればいいというものじゃなくて。だから、やっぱり台本とか読まなくていいんですよ。経験なんて何一つ役に立たない……は言い過ぎか。でも、その人がそこにいればいい、ということでもある。彼らを見ていると、これからも何も考えずにカメラの前に立てばいいんだと思わせてくれる。経験じゃないんだと思うと気持ちが楽にもなるし、演技にはいろんな可能性があるんだな、と思わせてくれるんです。演技の経験がない人と間近に接すると、いつも素晴らしいと思う。「そうなんだよ、その人がそこにいればいいんだ」と思う。

──経験を積むと、その分ちょっと余計に何かしたくなるのでしょうか。

草なぎ:どうでしょうかね。でも何かするのも、やっぱりお芝居でもあるので。別にしてもいいと思う。自分がよければいいんですよ。やりたければやっていい。その時感じたものを出すことが、僕は大事じゃないかなと思う。

──お話を聞いていると、草なぎさんはあらゆることを否定しない人という印象を受けます。

草なぎ:そうですかね。

──全然否定的なところがないと感じます。まずは、全てそのまま受け取るところから始まるのかな、と。

草なぎ:正解、不正解ってどっちもあると思うんです。裏と表があるっていうか。どっちも正解であり、どっちも成功であり間違っていると思う。特に演技なんて、何でもいいんじゃないですか。だって何でもありでしょう。せりふを言っていればいいんですよ。

──すごく簡単なことのように話されますが……。

草なぎ:何も考えないのが一番じゃないですか。ああでもない、こうでもないと考えるよりも、とりあえず書かれたこと言っていればいい、そのぐらいに思っているほうがリラックスできて自然になると思うんです。そこに何か意味を込めて、みたいな感じになると難しくなってくる。

──素人はついそこに何か、意味をつけなければ、と想像してしまいます。

草なぎ:大体意味なんかないじゃないですか、生きていて行動することって(笑)。これは極論だけど。

──確かに、いちいち考えながら行動しているわけではないですね。

草なぎ:そう、考えすぎる必要ないんですよ。難しく考えるから、変なことになっちゃう。……そんなことばかり言ってると、監督に怒られそうなので、考えているふりしていますよ(笑)。全然考えてないんだけど、そういう演技をしています、僕は(笑)。現場に入ってちょっと難しい顔して。だから、そっちの演技のほうが大変ですよね(笑)。いやいや、マジでそうなんだもん。

──なかなか真似できることじゃないと思います。

草なぎ:いやいや、誰でもできますよ。

──現在配信・放送中のドラマ『拾われた男』もですが、草なぎさんは出演作ごとに本当に雰囲気が変わるし、作品そのものがどれも魅力的です。出演オファーを受ける時に大切にしている基準は何でしょうか?

草なぎ:もう先着順ですよね。

──先着順?

草なぎ:早く来た順で拒まない。僕は仕事を拒んだことないんです。スタッフが精査してくれているので。仕事がないと、ただのぐうたらになっちゃうし(笑)。

──真に受けることはできませんが……

草なぎ:ほんと、ほんとです。

──ところで、大人になった久田は部屋にあったサバ缶を目にして、昔を思い出します。草なぎさんにとってのサバ缶……それを見たり聞いたりして昔を懐かしく思い出すものはありますか。

草なぎ:昔を懐かしむもの……写真ですかね。普通だけど(笑)。今はスマホで急に「1年前の今日」とか出てくるでしょ。あれ、結構いいよね。つい見入って「1年前か……、時は流れてるんだな」と。当たり前だけど(笑)。愛犬のフレンチブルドッグの小さい頃の写真を見ていると、心温まったり、ちょっと切なくなったり。「こんなに大きくなったんだな」って。もう今年6歳なので。

──そういえば、YouTubeのチャンネルも拝見しています。私が好きなのがお料理の動画なんですが。

草なぎ:適当にやってます!

──でも、すごく参考になります。

草なぎ:簡単でいいでしょう? 謎料理も結構多いけど(笑)。

──助けてもらっています。ちなみにサバ缶もお好きだと聞いたので。

草なぎ:好き。

──最後に、おすすめのサバ缶レシピをお聞きしてもいいですか?

草なぎ:サバ缶でよく使うのは水煮のほうです。水煮とタマネギスライスして、ちょっとマヨネーズを入れて……ツナマヨみたいになるんだけど、もうちょっとおいしい(笑)。昔からよくやってます。

──おいしそうですね。

草なぎ:おいしいよ、やってみて。新タマネギはあんまり辛くないから、そのままでいいけど、普通のタマネギはちょっと水に浸してからよく水分を取って。それでサバ缶を入れて、マヨネーズだけでいい。そうだ、さらにレモン汁をちょっと搾ると、すごくおいしくなります。あとトマトとも合うんだよね、サバって。みそ煮もトマトと合う。そのままフライパンでちょっと火を通して、何なら調味料もほとんど要らないぐらい。適当に塩・コショウでもいいし、ちょっとバジルとか香草類を入れたら、もう最高です。

(text:冨永由紀/photo:今井裕治)

草なぎ剛
草なぎ剛
くさなぎ・つよし

1974年7月9日生まれ、埼玉県出身。1991年にCDデビューし、ドラマや映画、舞台、CMなどで活躍。主な映画出演作は『黄泉がえり』(03年)、『日本沈没』(06年)、『あなたへ』(12年)。テレビドラマは『僕と彼女と彼女の生きる道』(04年)、『任侠ヘルパー』(09年)、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(21年)など。2017年9月には『新しい地図』を立上げ、オムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』(18年)中の『光へ、航る』に主演。その後に『まく子』(19年)、『台風家族』(19年)に出演し、第44回日本アカデミー賞作品賞受賞の『ミッドナイトスワン』(20年)で同最優秀主演男優賞を受賞。「アルトゥロ・ウイの興隆」など舞台作品にも出演。現在、Disney+とNHK・BSプライムにてドラマ『拾われた男』が配信・放送中。