『ジャッジ 裁かれる判事』
トニー・スターク(アイアンマン)は、そりゃクールだし、見ていて痛快だ。でも、スーパーヒーローを演じるロバート・ダウニーJr.を見るだけでは寂しい。そう思っていたところに、ダウニーがプロデューサーの妻スーザンと設立した製作会社「チーム・ダウニー」の第1作『ジャッジ 裁かれる判事』が完成した。
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都会で活躍する弁護士が病死した母の葬儀のために帰郷、すると今度は地元で判事をつとめる父にひき逃げ殺人容疑がかかる。絶縁状態にあった父と息子が、共に職業とする法の世界を通して対峙し、同時に、理屈で白黒つけられない誇りや情といった感情を少しずつさらけ出していく。
ダウニーが演じるのはシカゴを拠点に、裕福な依頼人の無罪を勝ち取る辣腕弁護士ハンク。郊外の洒落た家に、離婚寸前の美人妻と子どもと暮らす彼は、幼い1人娘に接する時を除いて絵に描いたように傲慢だ。そんな彼が母の訃報を受けて、生まれ育ったインディアナ州の小さな町へ戻る。父や2人の兄弟とは疎遠で、20年以上も戻らなかった故郷に戻って来た瞬間がいい。少しも変わらない風景にうんざりした表情に、ごくごく微かに懐かしさが淡くにじむ。本当にいい俳優。このきめ細かさを見たかったのだ。
町の判事を40年以上つとめ、人々から尊敬されてきた父親ジョゼフを演じるのは名優、ロバート・デュヴァルだ。厳格で正義感にあふれ、だが、長年支えてくれた妻の突然の死に動揺し、自らの老いと直面する男の葛藤を見事に表現する。妻の葬儀が終わった夜、1人で買い物に出かけたジョゼフは翌日、ひき逃げ容疑で取り調べを受ける。被害者の血液がジョゼフの車から検出されたのだ。やがて、ジョゼフと被害者の複雑な関係が明らかになる。
兄に説得されて父の弁護を引き受けたハンクは、衝突を繰り返しながらも職務として証拠を集め、その過程で父と息子が袂を分かつことになった家族の悲劇や、父親が抱え続けた後悔がつまびらかにされていく。
そこに、地元に残ったハンクの兄グレン(ヴィンセント・どのフリオ)や知的障害の弟デール(ジェレミー・ストロング)、高校時代の恋人だったサマンサ(ヴェラ・ファーミガ)との関係も盛り込まれる。法廷劇にして、親子や兄弟の絆、恋愛も描き、どれだけ詰め込むのか?というほど多彩だが、不思議と消化不良にならない。1つ1つが何らかの形で関わり合っている。人が生きていくという、その厄介さと背中合わせの愛おしさが綿密に描かれる。監督は『シャンハイ・ナイト』や『ウェディング・クラッシャーズ』などコメディを得意とするデヴィッド・ドブキン。撮影はスピルバーグ作品で知られるヤヌス・カミンスキー。ジョゼフを厳しく追及する検察官をビリー・ボブ・ソーントンが演じている。
なにはともあれ、本作は2人のロバートが見せる名演に尽きる。互いに一歩も譲らず、対立する父と息子は似た者同士であり、なかなか歩み寄れない。簡単には決着のつかないその関係を見守り続けるだけでも十分に堪能できる142分だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ジャッジ 裁かれる判事』は1月17日より公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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