8月22日はヤバイ夫婦の日。日付は「ヤ(8)バイふ(2)うふ(2)」と読ませる語呂合わせから選ばれたが、元々は2012年9月公開の映画『夢売るふたり』を多くの人に見てもらいたい、という理由で映画会社が制定した日である。「ヤバイ」は元々「ありえない」といった否定的な意味の語だったが、いつしか「ありえないくらいイケてる」というポジティブな意味でも使われるようになった。だが今回ご紹介する3作品に登場するのは、どちらかというと本来の意味で「ヤバイ」夫婦ばかりである。
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松たか子が火のついた札束を入浴中の夫に投げつける!
やはり、記念日制定のきっかけとなった『夢売るふたり』を外すわけにはいかない。阿部サダヲと松たか子演じる夫婦は一体どうヤバイのか、ぜひその目で見届けていただきたい。平たく言うと、経営していた居酒屋が火事で焼失してしまった夫婦が、店再建のために協力しあって資金繰りに奔走する話である。一見美談のようだが、この夫婦が考え出した資金繰りの方法がとんでもなくヤバかった。最初はそのからくりに気付かないが、その実態に気付くとこの夫婦のぶっ飛び具合(特に松たか子演じる嫁、いや、女の空恐ろしさ)にゾッとするに違いない。
ヤバイながらも最初は笑って見ていられたものが、金と引き換えに失われるものの存在に気付くと途中からどんどん笑えなくなっていく。そして、果たして新しい店が欲しいのか金が欲しいのか、次第に本人たちも見ているこちらもわからなくなってくるのだ。必死になるあまり目的と手段が入れ替わって最初の目的を見失う、という世間でありがちな罠にハマってしまった夫婦に下された、天の裁量や如何に?
心が壊れゆく妻への献身愛。眼をえぐった妻に下した苦渋の決断
続いてご紹介するのは、ジャン=ジャック・ベネックス監督のフランス映画『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』。(※作品の結末に触れているのでご注意ください) コケティッシュでキュートな魅力を振りまくベティ(ベアトリアス・ダル)とあっという間に恋に落ちたゾルグ(ジャン=ユーグ・アングラード)は夫婦となって仲睦まじい日々を過ごすが、待望の子宝を授かったと思ったら勘違いだった、という出来事にショックを受け、それを引き金に妻のベティはどんどん精神を病んでいく。
それでも夫ゾルグのベティへの愛は枯れることがなく、むしろ溢れ出る泉のようにその献身愛は留まるところを知らない。妻を喜ばせるためなら、女装で変装して強盗をしてまで金を工面して何でも手に入れる。妻の好きな風景を自分たちだけのものにすべく、その土地すら買い取るのである。だが、妻の病状は悪化の一途をたどるばかり。意志疎通もままならない状態になって精神病院に収容された妻は、自分で自分の眼をえぐるほどに心が崩壊してしまう。そして、愛するがゆえに病床の妻の顔に枕を押し付けてその命を絶つ、という衝撃のラストシーンを迎えるのである。
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心の隙間にご用心! 訳アリの慣れ染めで結ばれた夫婦の結末は?
最後にご紹介するのは、ライアン・ゴズリングとミシェル・ウィリアムズが夫婦を演じた『ブルーバレンタイン』である。幼い娘を交えたパパとママの何気ない日常。映画は平凡ながらも幸せと見える光景から始まり、現在と過去の回想を行ったり来たりしながら進行していく。見る者はそれを通じてこの夫婦の馴れ初めや結婚のきっかけを知り、実は訳ありの家族構成である事に気付くのである。
人間、弱っている時は心に隙間が生まれる。そこにスッと入り込んでやさしくしてくれる相手をついつい特別視してしまう心情は、誰しも理解できるのではないだろうか。そして、恋愛の始まりでは「この出会いは運命かも?」「この人は特別!」といった自分に都合の良い意味付けをして、色眼鏡越しに相手を見てのぼせ上ってしまうことも珍しくない。それが悪いわけではないのだが、問題はそうして始まった恋愛がその後どういった経過をたどるかであろう。
この作品に登場する夫婦は、まさにそんな「恋愛初期にありがちな勘違い」で結ばれたワケあり夫婦だ。だが、そんな恋の魔法が解けて次第にギクシャクし始めて久しい。何とか夫婦関係の修復を試みるようとする夫の思惑は果たして吉と出るのか凶と出るのか。彼らの葛藤は誰しもが共感できる感情であるがゆえに、見ていてなんとももどかしさを感じる作品だ。(T)
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