ハリウッドのヒットプロデューサー「3傑」の手法や手腕、山あり谷ありの背景を3回に分けて解説する2回目は、ハーヴェイ・ワインスタイン。
・【興行トレンド】ハリウッドのヒットプロデューサー(その1)/火薬多めアクションで大成功!のジェリー・ブラッカイマー
前回紹介したブラッカイマーが巨額の製作費を費やしたアクション大作を得意とするのとは対照的に、製作費を抑えたインディーズ映画で頭角を現したプロデューサーだ。
彼は1979年に映画会社ミラマックスを設立し、自ら映画をプロデュースしたり、完成した作品を買い付けて配給した。89年にスティーブン・ソダーバーグ監督の『セックスと嘘とビデオテープ』で興行的な成功を収め、注目を集めた。93年に『クライング・ゲーム』がヒットした後、ミラマックスはディズニーに8000万ドルで売却された。
ワインスタインは売却後もミラマックスの社長として経営にあたり、94年にはクエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』が公開され、同社最大のヒットを記録した。
彼は買い付けた作品をそのまま公開する事はまずなく、完成前に観客に見せて反応を探る「スニーク・プレビュー」(覆面試写会)のアンケート結果に基づいた再編集や再撮影を長期間に渡り行う。監督の意向に反する編集を度々行うことから「ハーヴェイ・シザーハンズ」(シザーハンズのようなハサミの手で編集する)と揶揄されている。
ワインスタインがハリウッドで最も脚光を浴びたのがアカデミー賞。作品賞受賞を狙った巧みなマーケティング戦略で一世を風靡した。
96年公開の『イングリッシュ・ペイシェント』で、ミラマックスとしては初めてアカデミー作品賞受賞を果たした。その後、彼自身も『恋におちたシェイクスピア』(98年)のプロデュースでアカデミー作品賞を受賞。彼が社長時代のミラマックスは『シカゴ』を含め、アカデミー作品賞に3度輝いている(『ノーカントリー』もミラマックスだが、彼が同社を去ってからの受賞)。
2005年、ディズニーは映画部門が不振で、製作本数を縮小する共にリストラを敢行。合わせてミラマックスもリストラ対象となり、これに嫌気がさして独立を目指す。さらに、当時のミラマックスは『ギャング・オブ・ニューヨーク』『コールド・マウンテン』など製作費のかさむ大作を志向、しかもこれらの大作が利益を上げていないことからディズニーと対立を深めていったようだ。
2005年、彼は新たにワインスタイン・カンパニーを設立。アカデミー賞では11年に『英国王のスピーチ』、12年に『アーティスト』で作品賞を受賞したり、13年にはタランティーノ監督の『ジャンゴ 繋がれざる者』が全米で興収1億6300万ドルを上げ、タランティーノ監督最大のヒットを記録するなど、復活を果たしている。(文:相良智弘/フリーライター)
相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。
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