(…前編より続く)舞台でオペラやミュージカル作品を多く手がけてきたマシュー・ウォーチャス監督だけに、この『パレードへようこそ』も音楽の使い方が絶妙で、まるでミュージカル映画を見ているような気分にさせられる。使用されるのは、どれも80年代イギリスの音楽シーンを象徴するものであると同時に、この映画で鳴らされるに相応しい成り立ちを持つ楽曲ばかりだ。
・【映画を聴く】80年代ポップスをバックにゲイと炭坑夫の結束を描いた実話『パレードへようこそ』/前編
女性的なファッションで一世を風靡したボーイ・ジョージ率いるカルチャー・クラブほか、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドやソフト・セルなど、実際にゲイを公言するメンバーを擁するグループの楽曲も使われ、物語と密接に絡み合いながら彩りを加えていく。ほかにも当時ゲイの間で人気の高かったモリッシー率いるザ・スミスや、中性的なハイトーン・ヴォイスでモータウンのヒット曲をカヴァーしたフィル・コリンズなど、80年代の洋楽を熱心に聴いた人ならグッとくる選曲であることは間違いない。
そんななか異彩を放つと同時に、本作をキリッと引き締めているのが、冒頭のピート・シーガーと終盤のビリー・ブラッグの楽曲だ。ピート・シーガーは昨年94歳で亡くなった、プロテスト・ソング(メッセージ性の強いフォーク・ソングの一種)の始祖的な人物。反戦歌として有名な「花はどこへ行った(Where Have All The Flowers Gone?)」の作者として知られているが、ここでは「連帯は永遠に(Solidarity Forever)」が“LGSM”のテーマ曲のように使われている。いっぽうのビリー・ブラッグも、過激な政治的発言で知られる、シーガーらプロテスト・シンガーの意志を受け継ぐ存在。労働者の団結について歌った「There In Power In A Union 」がこの映画で使われるのは、ある意味必然的な流れと言えるかもしれない。
なお、“LGSM”の募金活動がピークに達するのは、本作でも描かれているロンドンのクラブ=エレクトリック・ボールルームで行なわれた“Pits and Perverts(炭坑夫とヘンタイ)”と題されたチャリティ・コンサート。このコンサートで集められた5650ポンドのほか、最終的には2万ポンドの寄付金が“LGSM”によって集められたという。
本作では描かれていないが、彼らとサッチャー政権の抗争は、結果的に後者の圧倒的な勝利で終わっている。しかしこの作品は、「とにかく行動してみること」の大切さ、負けると分かっている戦いに敢えて挑む意味などを見る者に問いかけてくる。表面的にはコメディ的なポップさを保ちながら、そのメッセージ性はどこまでも重くて深い。(文:伊藤隆剛/ライター)
『パレードへようこそ』は4月4日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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