今日から新宿K’s cinemaで公開される『スライ・ストーン』は、1960年代後半から70年代にかけて強烈なファンク・ミュージックで世界を席巻したスライ&ザ・ファミリー・ストーンのリーダー、スライ・ストーンの半生を追ったドキュメンタリーだ。
ジェームス・ブラウンと共に“ファンクの始祖”と呼ばれる人だが、多くのロック・ファンの興味を黒人音楽へ向かわせたという意味で、ジミ・ヘンドリックスと並べて語られることもしばしば。こと日本では両者に比べて通好みな存在ではあるものの、ポピュラー音楽界のレジェンドのひとりであることは間違いない。
奇しくも今年はジェームス・ブラウンとジミ・ヘンドリックスの伝記映画が立て続けに上映されるが(前者は5月30日に当コラムで紹介予定。後者は4月11日に紹介済み)、この2人とスライが大きく違うのは、彼がまだ生きているという点にある。70年代に入って、ドラッグに起因する奇行が目立ちはじめ、急激に失速。何度かカムバックを図ったものの、熱心なファンが納得するような成功には程遠く、40年あまりをほとんど世捨て人のように過ごしてきた。
本作はそんな消息不明&神出鬼没のスライを見つけ出し、インタビューをするという目的で制作が始まったもので、彼の誕生から近年までを紹介する伝記的なパートと、現在の彼を捜索するドキュメント的なパートが同時進行で展開される。
言ってみれば、よくある“あの人は今?”企画と変わらないものではあるのだが、オランダ在住のウィレム・アルケマ監督と筋金入りのスライ・コレクターであるコニング兄弟という双子を中心とする取材クルーの粘り強さは半端ではない。1993年から地道なリサーチを行ない、LAのとある町で固定資産税を滞納していた事実からスライの住所を特定。ファミリー・ストーンのメンバーや友人と接触し、徐々にスライ本人に近づいていく。その過程は“レジェンドの真相”に迫るスリルに満ちており、古くからのファンならずとも画面に釘付けにしてしまうようなパワーを持っている。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
・【映画を聴く】生ける伝説の真実に迫る衝撃のドキュメンタリー『スライ・ストーン』/後編
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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