(…前編より続く)今年でデビュー12年目を迎え、いまや日本のロック・シーンでは確固たるポジションを築いているRADWIMPS。そのすべての楽曲を作詞/作曲して歌っているフロントマンの野田洋次郎が、どうしてこのタイミングで映画に?と思う人は少なくないだろう。これまでも映画出演のオファーがいくつかあったという野田だが、本作出演の決め手になったのは、何よりまず脚本の魅力だったようだ。
・【映画を聴く】RADWIMPS・野田洋次郎が“自分の一部”を差し出した『トイレのピエタ』とその主題歌「ピクニック」/前編
宏は絵画、実際の野田は音楽と表現の手段は違うものの、自分の存在が“有限”だと知った時には、きっと自分も作品を遺したいと考えるはず。インタビューで彼が宏という人物について「自分のようで自分じゃない、でも自分だ」と語っている通り、自分の中に宏と通じる部分を確かに感じ取ったのだろう。ファンはこの映画の中の宏を見て、“これまで見たことのない野田洋次郎”と共に、“RADWIMPSの、いつもの野田洋次郎”の姿も見ることになると思う。
エンディング・テーマとして用意されたRADWIMPSの新曲「ピクニック」は、これまでのバンドの楽曲と同じく、野田洋次郎という個人の死生観を感じさせながら、同時に作品と宏の人生そのものをまとめ上げた、スケールの大きな詞世界が展開されている。誰もが漠然と考えている“本当のこと”を、平易で的を得た言葉で言い当ててしまう彼の才能は、ここでも健在だ。自分と宏の重なり合う部分を極限まで煮詰めて結晶させたような、ずっしりと重みを感じる楽曲に仕上がっている。
もともとミュージックビデオの制作にも意欲的で、映像との親和性を強く感じさせるRADWIMPSだけに、『トイレのピエタ』での役者経験が今後の野田の作風に与える影響は少なくないはず。2011年の「絶体絶命」から2013年「×と○と罪と」への深化を上回る“次の一手”に、いまから期待が高まる。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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