カリフォルニアのサーフ・カルチャーと美しい風景を記録した2007年のドキュメンタリー『ワン・カリフォルニア・デイ』を手がけたジェイソン・バッファ監督による最新作『ベラ・ヴィータ』が、今日から公開される。イタリア人の父を持つアメリカ在住のプロ・サーファー/アーティスト、クリス・デルモロが自身のルーツを探訪するイタリア・トスカーナへの旅を追ったドキュメンタリーで、サーフィンにまつわるドキュメンタリーがイタリアで撮影されるのは本作が初めてだという。
クルーは、バッファ監督の他には撮影監督とカメラ・アシスタントのみ。たった3人でハイスピード35mmカメラとデジタルシネマ・ユニット、16mmフィルム・ユニットを駆使しながら、3ヵ月にわたるイタリア・ロケを敢行したという。しかし実際に本作で見ることができる映像は、それがちょっと信じられないほどに美しく、かつ丁寧にまとめられており、『Bella Vita(=美しき人生)』のタイトルの通り、サーフィン映画の枠を超えた豊潤な人生讃歌に仕上がっている。
サーフ・カルチャーを彩る音楽はサーフ・ミュージックと呼ばれ、両者は切っても切れない親密な関係を長く保っている。従来はベンチャーズやビーチ・ボーイズ、映画『エンドレス・サマー』にフィーチャーされたサンダルズ、『パルプ・フィクション』でリバイバル・ヒットしたディック・デイル&デル・トーンズなど、軽快なエレキ・サウンドを指すことが多かったが、その流れは2000年代中頃からにわかに変わり、今ではジャック・ジョンソンを“源流”とした、アコースティック楽器中心のアンサンブルで聴かせるものをサーフ・ミュージックと呼ぶことがほとんどになっている。
バッファ監督による『ワン・カリフォルニア・デイ』も、そんな第2次(?)サーフ・ミュージック・ブームの最中に公開された映画だけあって、映像を彩る音楽はオフビートでオーガニックなサウンドに統一されている。アコースティック・ギターを片手に、海辺のサーファーたちが焚き火を囲み歌う──そんな光景が浮かんでくるような、和やかな楽曲ばかりだ。
しかし『ワン・カリフォルニア・デイ』から8年を経て公開されるこの『ベラ・ヴィータ』では、その音楽のトーンは少しばかり変化している。近年のサーフ・ミュージックが“アコースティックな和み系”で一括りにはできない幅広さを持つようになったのと同様に、実にバリエーション豊かな選曲で映像を引き立てている。
オーストラリア出身の3人組、ハイ・ハイズの「Open Season」や、スパイク・ジョーンズ監督『アイム・ヒア』の主題歌を担当していたアスカ・マツミヤの「Mister Beam」、Seabearのフロントマンによるソロ・プロジェクト、シン・ファンの「Nothings」など、従来のサーフ・ミュージックに通じるサウンドを持つ楽曲も使われているが、いっぽうでイギリスのサイケデリック・ロック・バンド、テンプルズの「Shelter Song」なども印象的に使われていたりする。選曲の幅広さが、ロードムービー的な要素も多分に含む映画としての重層性としっかりリンクしているのだ。
おそらくこの映画を見ようと思っている人は、ほとんどがサーフィン経験者だったりロハス志向者だったりするのだろう。そういった人たちの期待にばっちり沿うディティールやシチュエーションが用意された作品であることは間違いのだが、先述のように本作の広義なテーマは人生讃歌。たとえサーフィンにもロハスにも縁遠いインドア・ライフを送っていても、本作を見終えた頃にはクリスとその仲間たちの“美しい”生き方に、すっかり魅せられてしまっているはずだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『ベラ・ヴィータ』は6月13日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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