(…前編より続く)「Glory」は、ラッパーで俳優のコモン(本作にもジェイムズ・ベベル役で出演)と、シンガー・ソングライターのジョン・レジェンドがタッグを組んだ楽曲で、キング牧師の思想を的確にトレースしながら、昨年ミズーリ州ファガーソンで起こった白人警官による黒人少年の射殺事件にも触れたプロテスト・ソングに仕上がっている。
・【映画を聴く】キング牧師の初伝記映画メッセージを煽動するコモン&ジョン・レジェンドの主題歌「Glory」/前編
ジョン・レジェンドのシリアスで崇高な響きを持った楽曲と煽動的なコモンのリリックは、ある意味で1970年代のニュー・ソウル・ムーヴメント期に出てきた音楽たちと地続きだ。マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダー、ダニー・ハザウェイ、カーティス・メイフィールド(本作でも楽曲が使用されている)らによる当時の楽曲群は、本作で描かれる公民権運動の後にキング牧師が暗殺されたことで希望を打ち砕かれたアフロ・アメリカンの心情を吐露したものが多い。「Glory」では、その状況が実は今も何ら変わっていないことが切々と歌われている。
アカデミー賞受賞の際のコモンとジョン・レジェンドのスピーチによると、2人は本作で“分断”の象徴として描かれているセルマのエドモンド・ペタス橋に出向き、この「Glory」を歌ったという。また、そのスピーチでジョン・レジェンドは、ジャズ・シンガーのニーナ・シモンの言葉を引用しながら、時代を反映した楽曲を作ることの必要性についても語っている。
劇中では深夜に不安で眠れないキング牧師がゴスペル歌手のマヘリア・ジャクソンに電話をかけ、耳もとでゴスペル・ソングを歌ってもらうシーンが印象的に描かれているが、エンドロールで流れる「Glory」を聴いてから思い返すと、これが単純に“昔のエピソードのひとつ”として描かれているわけではないことがはっきりと理解できる。映像と音楽がここまで深く結びついた作品を見るのは、ずいぶん久しぶりに思えた。(文:伊藤隆剛/ライター)
『グローリー/明日への行進』は6月19日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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