『レッキング・クルー 〜伝説のミュージシャンたち〜』
(…前編より続く)ロネッツ「Be My Baby」、ライチャス・ブラザーズ「ふられた気持ち(You’ve Lost That Lovin’ Feeling)」、ママス&パパス「夢のカリフォルニア(California Dreamin’)」、モンキーズ「恋の終列車(Last Train To Clarksville)」、ビーチ・ボーイズ「Good Vibrations」、サイモン&ガーファンクル「明日に架ける橋(Bridge Over Troubled Water)」、カーペンターズ「Yesterday Once More」などなど。挙げだすとキリがないが、レッキング・クルーが関わった作品は、今でも普通に聴き継がれている名曲がとにかく多い。
たとえ曲名は知らなくとも、“ドン・ド・ドン、ダン!”という「Be My Baby」のイントロのドラム・パターンや、「恋の終列車」のビートルズを意識しまくったギター・リフなどを聴けば、膝を打つ人は多いはず。与えられた指示の通りにただ演奏するのではなく、時にはヘッド・アレンジで楽曲のフックになるフレーズを刻み込んでいく。そんな臨機応変な姿勢こそが、彼らの重宝された最大の理由に違いない。
で、レッキング・クルーのそういった貢献を端的に知ることのできる作品のひとつが、ビーチ・ボーイズの1966年のアルバム『ペット・サウンズ』だ。リーダーのブライアン・ウィルソンの半生を描いた先述の伝記映画『ラブ&マーシー』でも細かく描かれているように、ブライアンが全身全霊を捧げて取り組んだこのアルバムは、彼の指揮の下、レッキング・クルーの面々によって演奏されたサウンドで完璧に埋め尽くされており、ビーチ・ボーイズの他のメンバーは歌とコーラス以外ほとんど参加していない。
こういったブライアンの制作姿勢に対し、自分たちの演奏がいっさい使われないことに反発するメンバーもいたが、ブライアンはそれよりも彼らを起用することによる音楽的レベル・アップを優先。彼らに頼めばどんな音楽的難題も解決してくれる、そんな思いから“解体作業員”や“救難隊”という意味を持つレッキング・クルーという名がいつしか彼らに与えられたことは、想像に難くない。作中では『ペット・サウンズ』の制作にあたって、彼らが具体的にどのような関わり方をしたのかが本人たちの口から詳しく語られており、本作のハイライトのひとつになっている。
なお、このドキュメンタリーの監督は、レッキング・クルーのひとりであるトミー・テデスコの息子、デニー・テデスコが務めている。90年代後半にトミーが肺がんと診断されたため、デニーは父にまつわる記録をできるだけ残そうとカメラを手に取ったのだという。ブライアン・ウィルソンをはじめ、多くのアーティストのインタビューや楽曲の録音風景などを収録することに成功し、作品は2008年に完成。しかし、劇場で公開するためには作中で使用される130曲すべての権利関係をクリアする必要があり、そのためにかかる資金をクラウド・ファンディングなどで調達。足かけ18年の歳月を費やして全米公開を実現させている。
トミーは残念ながら97年に亡くなっており、完成した本作を見ることは叶わなかったという。しかしデニーのモノローグが随所に挿入されることで、本作は単純な音楽ドキュメンタリーを超えた深いドラマ性を獲得している。だから、アメリカン・ロック/ポップスにそれほど興味がなかったとしても、“息子による父の物語”としての見応えは十分だ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『レッキング・クルー 〜伝説のミュージシャンたち〜』は2月20日より全国公開される。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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