「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映像技術の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「ドルビーステレオ」
●オススメBlue-ray『スター誕生』
前回、紹介したように、ノイズリダクション技術を足掛けに、『時計じかけのオレンジ』でシアター音響界に本格的デビューを果たしたドルビーは、次にドルビーステレオ音声方式の普及・拡大に着手する。
ドルビーステレオとは、4チャンネル音声情報を(映画フィルムの)2チャンネルの音声トラックを記録し、上映時に専用機器を使って本来の4チャンネル音声に拡張するサラウンド方式のことだ。ドルビーステレオ=普通の2チャンネル・ステレオ音声と思っている方が多いが、これは間違いである。
チャンネル構成は、前方の左右(L/R)、L/Rの間のセンター(C)、客席側壁面のラウンド(S)の4チャンネルとなる。当時のサラウンドは1チャンネルのみの音声であり、すべてのサラウンド・ピーカーから同じ音が鳴るわけだが、それでも映画館にサラウンド空間を築けたことは革新的な進歩であった。
ドルビーステレオの特長のひとつは、たとえば前方のL/C/Rのチャンネル間で音を滑らかに移動させながら、台詞をCのみで鳴らすことができたこと。しかもLとC、RとCの間に台詞を定位させることも可能となった。さらに前方の音場再現を格段に飛躍させると同時に、観客側の音場空間も構築したのだ。
ドルビーステレオを初めて採用した作品は、ケン・ラッセル監督のスラップスティック・ミュージカル・コメディ『リストマニア』(75年)。この『リストマニア』ではL/C/Rの3チャンネルに限られていたが、バーブラ・ストライサンドとクリス・クリストファーソンが共演した『スター誕生』(76年)で初めてL/C/R/Sの4チャンネル再生が行われている(ブルーレイ音声は5.1chにリミックスされたもの)。
全米の映画館では『スター・ウォーズ』(77年5月)で一気にシステム導入が増え、『未知との遭遇』(同年11月)がさらなる拡大を促した。ドルビーステレオ採用作品も急激に増加。再生システムを導入していない映画館では観客動員数が著しく減少したため、劇場側も続々と導入に踏み切ることになる。80年代以降、ドルビーのサラウンド技術は進化を遂げ、映画の標準フォーマットの座を得た。そして90年代、いよいよドルビーのデジタル録音規格が登場する。この話はまた次回。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は3月18日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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