「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映像技術の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「ドルビーデジタル」
●オススメBlue-ray『耳をすませば』
前回は、『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』の成功によって、ドルビーステレオ方式が全世界に普及したことを解説した。そして80年代。音楽業界にはデジタルの大波が押し寄せるが、シネマサウンドはアナログのままであった。
90年代の幕が上がると、ようやくデジタル上映方式がテイクオフ。ドルビーデジタルの誕生である(正式名称ドルビーSRD方式)。この音声方式は、最大6チャンネルの音声信号をデジタル技術で高品位かつ効率的に圧縮、パーフォレーション(フィルムの縁に一定間隔で開けられている送り穴)の部分に音声データとして収録するものであった。
6チャンネル構成は、前方(スクリーン側)3チャンネル(右、センター、左)、後方(壁面)2チャンネル(サラウンド右、サラウンド左)、さらに低音域の補強に用いる専用チャンネル(サブウーファー)を加えた5.1チャンネルとなる。サラウンドはそれまでのように右/左で同じ音が鳴るのではなく、独立したステレオ音声収録となった。サブウーファーに割り当てられる音声はLFE(Low Frequency Effect)と呼ばれ、これを0.1(ポイント・ワン)chと表記するのは、常時使用されず低域のみを再生する(帯域が狭い)チャンネルのためだ。
初採用作品はティム・バートン監督作『バットマン リターンズ』。最大2644館で上映され、うち6割でドルビーデジタル上映、観客動員はアナログ音声上映館の3割増しだったという。ちなみに日本では『ゴジラvsメカゴジラ』(93年)で試験採用、本格導入されてたのは、(意外なことに)スタジオジブリ作品『耳をすませば』(95年)であった。ドルビーデジタルによって音の鮮明さが格段と向上し、サラウンドも2チャンネルとなったことで、さらに臨場感を増す演出が可能となったわけだ。
そして99年公開『スター・ウォーズ エピソード1』で、新規格ドルビーデジタル・サラウンドEXが採用される。これは6チャンネル構成に、リアセンター(サラウンドバック)を加えた7チャンネル構成である。これで「デジタル・サウンドは行き着くところまで行った」と思われたが、トンデモナイ! 映画音響業界を仰天させた次世代サラウンド規格、ドルビーアトモスのご登場となる。この話は次回。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は4月1日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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