最近の韓国ホラー映画はかなり豊作で、面制圧してくるゾンビが出てきたり、人間が激しく呪われたり「やっぱり一番怖いのは人間ですよね」といった映画など、様々な設定の作品が続々登場している。
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それらのクオリティはかなり高水準で、韓国はもともとカーチェイスや擬闘、とにかく痛そうに嫌な感じで人を殺傷するのが上手いものだから、ホラー映画との親和性はかなり高い。
脚本もハイレベルなので、言い換えれば「成熟」しているとも言える。無論ツッコミどころ満載のホラー作品も面白いが、ホラー映画の「ホラー」を抜いて、純粋な映像作品として成り立つものも少なくない。
2019年に韓国で公開され、日本ではNetflix配信された『サバハ』も、そのひとつに数えられるだろう。
宗教界と癒着した男の“胡散臭さ”は一見の価値あり!
牧師を営みつつ「極東宗教問題研究所」なる研究所の所長をしているパク・ウンジェ(イ・ジョンジェ)は、新興宗教団体の「鹿野苑」に目をつけ、調査を開始していく。物語は二転三転し、クライマックスには予想だにしない出来事が起こる。
パクは韓国仏教界と癒着しており、他宗教の問題点やスキャンダルを追求して金を儲けるビジネススキームを採用した端的に言って非常に胡散臭い奴なのだが、今や『イカゲーム』により世界的に有名となったイ・ジョンジェの抑えた演技は一見の価値有りだ。
演技で抑えても抑えきれない胡散臭さがご愛嬌なのだが、本作にはとにかく胡散臭い人間しか出てこない。というか、胡散臭い人、胡散臭いと思ったら本当に胡散臭い人、胡散臭い人だと思ったら胡散臭くなかったと思いきや、ぱっやり胡散臭い人しか登場しない。
パクが調査する「鹿野苑」にも「広目様」と呼ばれるチョン・ナハンという金髪の胡散臭い人間が配置されている。演じるのは『ただ悪より救いたまえ』『地獄が呼んでいる』で名演技を見せたパク・ジョンミンだ。均整とれた顔つきのイケメンだが、やっぱり胡散臭い。
そして、もうひとりのキーパーソンが、足に傷を負った謎の少女グムファ(イ・ジェイン)である。イ・ジェインは現在Instagramで透き通るような美しいセルフィーを投稿しているが、本作の彼女は上記2人にも増して胡散臭いというか怪しいし怖い。
謎の少女グムファ、極東宗教問題研究所のパク、そして鹿野苑のチョンだけでも胡散臭すぎるが、さらに喉に小豆と護符をねじ込まれた死体を皮切りとした連続殺人事件、過去の大量虐殺事件などが複雑に絡み合い、物語を編んでいく。
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韓国だからこそ作れた、ジャンルの壁を越えた抑制ある良作
『サバハ』はホラー、宗教、オカルト要素が強いがそれだけではない。骨太の社会派ドラマや事件の謎を追求するサスペンスモノとしての属性も加わり、ジャンルムービーの壁を軽々と越えていく。
基本的なストーリーは「ヘロデ王の大虐殺」をベースにしていて、この生地に仏教やキリスト教、密教やイスラム教、果ては土着信仰までトッピングされ、最後には韓国が独自に持つ「ハン」の文化が添加されたピザのようになっている。
何より素晴らしいのは、これほどまでに多様な要素を内包しているのにも関わらず「風呂敷をしっかり畳む」点にある。さらに複雑なストーリー展開ながらも視聴者を置いてけぼりにしない「わかりやすさ」も確保している。
そして地味である。ここも凄い。本作には胡散臭い人間しか登場しないが、ギリのギリで「嘘っぽくない胡散臭さ」をキープし続ける。要はある意味リアルで、口角泡を飛ばしながら演説する教祖も、珍妙な言動や動きをする信者も登場しないし、韓国映画お得意のカーチェイスや擬闘も封印している。ついでに言えば爆破もない。
しかし、この地味さがホラー映画でありがちな安っぽさや幼稚さを脱臭させる。驚くべき展開が繰り広げられる結末も神話的でいい。投げっぱなしではない問題提起やメッセージが的確に提示される。
また先程も少々触れたが、韓国映画というか国民に特有の「ハン」を添加することにより、「韓国以外にはできない」仕上がりになっている。韓国は50%以上の国民が何らかの宗教を信仰している。「正しいのか、正しくないのか」そして「私の行動は善なのか悪なのか」という感情は、韓国が構造的に抱え続けている煩悶だ。『サバハ』はホラー映画の顔つきをしながらも、韓国全土に巣食った潜在的な問題を意識的・無意識的かは判然としないが、丁寧に扱う。
『サバハ』は韓国ホラー映画のなかでは地味な作品ではあるものの、とにかく胡散臭く、そして成熟したホラー作品だと言えるだろう。良作なホラーを見たい方はもちろん、韓国の大泉洋ことイ・ジョンジェ史上最も胡散臭い演技が見たい方にもぜひご覧いただきたい。(text:加藤広大/ライター)
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