ネオリベラリズムや極右勢力の台頭に警鐘! パルム・ドール受賞のケン・ローチ監督スピーチ
第69回カンヌ国際映画祭が22日(現地時間)に閉幕、最終日の授賞式で最高賞パルム・ドールに、79歳のイギリスの名匠ケン・ローチ監督の『I, Daniel Blake(原題)』が輝いた。
心臓発作でドクターストップがかかり仕事を続けられなくなったのに、「健康すぎる」という理由で生活保護を拒否された59歳のダニエル・ブレイクが理不尽な行政に挑戦していくストーリー。
2006年の『麦の穂をゆらす風』に続いて10年ぶり、2度目のパルム・ドール受賞をスタンディング・オベーションで迎えられたローチ監督は、最初フランス語で映画に関わった人々や映画祭に感謝を語ったが、最後に英語に切り替え、「私たちの生きる世界は危険な状況にあります」とヨーロッパの緊縮財政やネオリベラリズム、極右勢力の台頭に警鐘を鳴らした。
グランプリはグザヴィエ・ドラン監督の『Juste la fin du monde(原題)』が受賞。2014年に『Mommy/マミー』で審査員賞を受賞し、昨年は審査員を務めた若き天才監督は今回、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、ギャスパー・ウリエル、ヴァンサン・カッセルといったフランス映画を代表するスターを集め、ジャン・リュック・ラガルスの戯曲を映画化した。
ドラン監督は感極まった様子で「私たちがこの世界でする行動は、愛されるためにしていることです。僕は特にそうです。受け入れてもらえるために、です。成長するにしたがって、そして映画を撮り続けていけばいくほど、理解していらうのは難しくなってきます。でも僕は今、自分のことがわかるようになってきました。安きに逃げず、伝えなければいけないと思います」と涙ながらに語った。
審査員賞は『American Honey(原題)』。イギリスの女性監督、アンドレア・アーノルドがアメリカで撮った作品で、雑誌の訪問販売をするグループに加わった家出少女の恋愛と成長を描く。
最優秀男優賞はイランのアスガル・ファルハーディー監督の『The Salesman(英題)』のシャハブ・ホセイニ。最優秀女優賞はフィリピンのブリランテ・メンドーサ監督の『Ma’ Rosa(原題)』のジャクリン・ホセ。本当に驚いており、映画で共演もしている娘のアンディ・アイゲンマンも連れて登壇。感極まった様子で感謝を述べる姿を客席で見ていた感激屋のグザヴィエ・ドラン監督が涙ぐんでいたのが印象的だった。
監督賞はクリスチャン・ムンジウ監督(『Bacalaureat(原題)』)とオリヴィエ・アサイヤス監督(『Personal Shopper(原題)』)がW受賞。ムンジウ監督は第60回で『4ヶ月、3週と2日』でパルム・ドールを、第65回で『汚れなき祈り』で脚本賞を受賞している。アサイヤス監督の『Personal Shopper』は、昨年の映画祭に出品した『アクトレス 〜女たちの舞台〜』に続いてクリステン・スチュワートを主演に迎えた風変わりなゴーストストーリーで、マスコミ試写ではブーイングも出たというが、賞賛する声も上がり、賛否両論といった感じだった。
脚本賞は『The Salesman』で、監督でもあるアスガル・ファルハーディーが受賞した。
「ある視点」部門では深田晃司監督の『淵に立つ』が審査員賞、スタジオジブリが製作に参加の日仏合作『レッドタートル ある島の物語』は特別賞に輝いた。
『淵に立つ』は、浅野忠信、古館寛治、筒井真理子らが出演。浅野は、昨年も深津絵里と共演した『岸辺の旅』が同部門で監督賞(黒沢清)を受賞していおり、出演作が2年連続で受賞を果たした。
『レッドタートル ある島の物語』はスタジオジブリとフランスのワイルドバンチによる日仏合作。高畑勲がアーティスティック・プロデューサーを務めている。
新人賞にあたるカメラ・ドール賞は『Divines(原題)』のウダ・ベニヤミナ監督。受賞スピーチでは喜びを爆発させ、「カンヌは私たちの女性のもの!」と叫びながら、スタッフやキャスト、家族への感謝をエネルギッシュに語り続けた。
今年の映画祭で目立ったのは、女性映画人の活躍。コンペティション部門には女性監督作が3本、ある視点部門ではジョニー・デップの愛娘、リリー・ローズ・デップが出演する『La Danseuse(原題)』(ステファニー・ディ・ジュスト監督)をはじめ4本、コンペ外の公式上映ではジョディ・フォスター監督の『マネー・モンスター』が上映された。
コンペ部門では、笑って泣かせるコメディで、162分という長尺ながら映画祭前半の上映時からパルム・ドール本命視されていたドイツのマーレン・アーデ監督の『Toni Erdmann(原題)』は残念ながら受賞はならず。だが、前日発表の国際批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞した。
レッドカーペットの厳しいドレスコードに反旗を翻す女優たちが続出したのもの今年の特徴。12日(現地時間)の『マネー・モンスター』公式上映のレッドカーペットでは、アルマーニ・プリヴェの豪華なドレスをまとったジュリア・ロバーツがなんと裸足で登場。昨年の映画祭で、ハイヒールを履いていないことを理由に入場を断られた女性がいたことが大きく報じられたが、その騒動に対するジュリアらしい反応だったようだ。彼女のほかにもスーザン・サランドンがパンツスーツにフラットシューズ、ヴィクトリア・ベッカムが自らデザインしたパンツルックで登場するなど、ロングドレスにヒール以外は認めないという旧弊なルールに異を唱えてみせた。
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