人気でも赤字…の現実『なぜ君』大島新監督が語るドキュメンタリーの苦境と展望
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【日本映画界の問題点を探る/「殺さぬように生かさぬように」のドキュメンタリー制作現場? 1】「ドキュメンタリー映画は1万人行けばヒット」と言われるなか、3万5千人を超える動員を記録した2020年公開の『なぜ君は総理大臣になれないのか』。衆議院議員の小川淳也を17年に渡って追い続けた本作は、通称『なぜ君』と呼ばれて大反響を巻き起こした。その監督を務め、いまやドキュメンタリー映画界を牽引する一人となっているのが大島新監督。『情熱大陸』や『ザ・ノンフィクション』といった人気テレビ番組で数々のドキュメンタリーを手掛けたのち、現在はドキュメンタリー映画の監督とプロデュースに力を入れている。
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昨年11月には、著書「ドキュメンタリーの舞台裏」を出版。ドキュメンタリー制作のリアルな現状だけでなく、現場で味わった葛藤や苦悩などについても包み隠さずに語っており、いずれも興味深いエピソードが並ぶ。作り手のみならず、観客としてドキュメンタリーを楽しむうえでも必読の1冊となっているが、同時にドキュメンタリー映画界の厳しさも突き付けられる。
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「いま、日本で製作されたドキュメンタリー映画は年間60~70本ほど公開されていますが、劇場の収益だけで回収できているのは10本もないと思っています。劇場公開のあとに、上映会や配信をして、ようやくとんとんになるくらいかなと。時間とお金をかけて劇場に行き、さらに安くはないチケット代を払うわけですから、そういう部分で大きなハードルがありますよね。作品としての完成度はもちろん重要ですが、そのうえでどうしたら『いま見ておかなきゃいけない』と思わせられるか、そこにかかっている気がします」
とはいえ、ここ数年でドキュメンタリーの人気は高まっている実感があると話す。
「追い風が吹いてきているのかなとは思います。例えば、『なぜ君』のときに劇場でドキュメンタリー映画を初めて見たという方から『この作品をきっかけにほかのドキュメンタリー映画も見るようになりました』といった声も聞きました。あとは、最近だとお化け級のヒットとなった『人生フルーツ』(観客動員数27万人)などもありましたからね。もちろん劇映画に比べるとまだまだと言われるかもしれませんが、劇場でドキュメンタリーを見てくださる方が徐々に増えていると感じています」
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高画質カメラの低価格化と小型化がドキュメンタリー制作のリスクを低減させた
大島監督は、『なぜ君』の続編となる『香川1区』でも高く評価されたが、自身の監督作以外にプロデューサーとしても手腕を発揮。『ぼけますから、よろしくお願いします。』や『私のはなし 部落のはなし』といった良作を次々と世に送り出し、ドキュメンタリーファンの獲得に貢献している。とはいえ、前述したように、ドキュメンタリー映画で黒字を出すのは厳しいのが現実だ。
その一方で、海外のドキュメンタリー作家を取材する機会がよくある筆者からすると、オンライン越しに垣間見える彼らの生活は非常に潤っているように感じることが多い。日本とは違うであろう状況を伝えたうえで、「日本のドキュメンタリー作家たちが儲けるためにはどうしたらいいのか?」とストレートな疑問を投げかけてみた。
「まず挙げられるのは、マーケットの問題。というのも、日本の場合はまだ国内にしか目が向いていないので、そこが海外の方々との間にある大きな差となっています。いまは劇場での動員だけでなく、配信も含めて世界で売れれば成功をつかめる可能性はあるので、私も目指していきたいですね。このまま国内向けだけを追っていたら、儲けもたかが知れている気がしています。たとえば、Netflixのドキュメンタリーを見ていると、かけている時間とお金が桁違い。えげつない見せ方の作品もあるのですべてとは言いませんが、うらやましい部分もあります。あと、助成金を使う手もありますが、嫌になるほど書類が多い。それだけの労力を使っても通らない場合もあるので、それなら最初からやらないほうがいいかなと思ってしまうのが現状です」
日本の助成金に関する問題は以前から指摘されていることでもあるが、世界で戦える人材を育てるために改善は急務と言えるだろう。昔に比べると、海外を目指しやすい環境になりつつあるというが、それでも解決しなければいけないことはまだまだ多い。
「海外に向いている作品とそうではない作品がありますし、英語版を作るのも簡単ではありません。『ぼけますから、よろしくお願いします。』のようなどこの世界にも通じる普遍的な内容ならいいですが、『なぜ君』は英語字幕で説明を入れても伝わらないところが若干ありました。費用をかけて英語版を作っても、今度はそれを回収できるかどうか、という問題も出てくるので難しいなと思います。ただ、いまはお金をかけないでやろうとすればできるので、そういう意味でのハードルは下がっているのかなと。高画質カメラの低価格化と小型化が進んだことによってミニマムな状況でも撮れるようになったので、リスクが減ったと言えるかもしれません。とはいえ、納品したら終わりのテレビ番組とは違って、映画は完成したあとに時間も労力もお金もかかることが多いので、そこも考えるとまだまだ大変ですね」
そんななか、いまの状況のままでも収益を増やす可能性がないわけではないと付け加える。そのカギとなるのは、劇場での動員数。
「本来は劇場だけでリクープできたらそれが一番嬉しいのですが、動員数が多ければその後の展開もかなり違ってきます。というのも、テレビで放送する場合、劇場の動員数によって放送権の値段が変わってくるからです。ただ、最近は大作が劇場をジャックしてしまうこともあるので、上映の機会を失ってしまう中規模作品にとっては厳しいところもあると感じています」
映画界では公開初週の東京の動員状況が、地方の上映館数を決めるうえで基準の一つとなる。それだけに“映画鑑賞の原点”である劇場の重要さだけでなく、観客としてできることについても改めて考えずにはいられないだろう。(text:志村昌美/photo:泉健也)【異色ドキュメンタリー『センキョナンデス』は業界に一石を投じるか?(2023年2月18日掲載予定)】に続く
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