センキョナンデス

いまの映画業界は遠くの“評価”よりも近くの“金”みたいなところがある

【日本映画界の問題点を探る/「殺さぬように生かさぬように」のドキュメンタリー制作現場? 4】ラッパーのダースレイダーと時事芸人のプチ鹿島、ニュース系YouTube番組『ヒルカラナンデス』でも人気を博す2人が映画監督に初挑戦した政治ドキュメンタリー『劇場版 センキョナンデス』が公開中だ。そのプロデューサをつとめるのが、『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』をヒットさせた大島新監督だ。映画界の現状について大島監督に聞く4回目。

センキョナンデス

『劇場版 センキョナンデス』全国順次公開中
(C)「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

コンプライアンスや忖度がメディアを衰退させる要因の一つとなっていると言われているが、それに伴ってテレビ業界の事情も大きく変わってきている。そんななか、テレビ局主導の映画が量産されていることもあり、テレビが映画界に与えた影響は計り知れない。この状況について、大島監督は元テレビ局員の視点からこう分析する。

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「みんなが『当たっているものが作品としてもいいものである』というふうに思うようになってしまっているのであれば、それはテレビのせいでもあるかなと。もちろん、作っている以上はヒットしたほうがいいですが、あくまでも数字はファクトとしてあるだけですから。象徴的な例として、『鬼滅の刃』が『千と千尋の神隠し』の記録を抜いたときに、『作品性としてはどうなのか』みたいな議論もあったと思いますが、まさにそういったことですよね。その原因については、『ドキュメンタリーの舞台裏』という本にも書いているように、私は秋元康さんの存在は大きいと思っていました。とはいえ、決して彼1人のせいだとは言いませんが、90年代くらいからその予兆はあったと感じています」

阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起きた1995年に、フジテレビに入社した大島監督。激動の時代を経験してきたからこそ、変化を実感している部分は大きいだろう。では、作品性を追求するうえで、必要なこととは一体何なのか。

「以前、村上春樹さんが『作家として目指している作品は、再読に耐え得るもの』とおっしゃっていたのを聞いたことがありますが、まさにその通りだなと思いました。つまり古典のように繰り返し読み継がれるものということですが、それは映画でも同じことかなと。最近、世界の映画監督が選ぶトップ50という調査がイギリスで行われていて、『2001年宇宙の旅』が上位にランクインしているのを見たときもそう感じました。初めて見たときはよくわからなかったですけど、時々見返すとやっぱりすごいなと思うんですよね。あとは、自身の出版記念として『ゆきゆきて、神軍』の上映会を昨年行ったときのこと。観客の半分は初めて作品を見る若い方でしたが、35年経ったいまでも観客に驚きを与えられるのは素晴らしいと感じました。それに比べると、いまの映画業界は遠くの評価よりも近くの金みたいなところがあるのかなとは思います」

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スタジオジブリ鈴木敏夫のような名プロデューサーの力が必要

そういう状況を少しずつ変えていきたいと考えている大島監督には、意識している人物がいるという。

「ドキュメンタリー界にはスタジオジブリの鈴木敏夫さんのような存在が必要だと感じています。おこがましいですが、私もプロデューサーとして、少しでも近づけたらと思います。韓国を例に挙げますが、ポン・ジュノ監督の才能を開花させてどう世界に売っていくか、その戦略がプロデュースチームにしっかりとあったからこそ、成功したわけですよね。もちろん、作品性と才能があってこそ可能なことではありますが、それをどうやって世界に届けていくかが重要だと思っています」

鈴木のみならず、過去の映画界には鈴木を生んだ徳間書店の徳間康快など、豪快な手腕を振るった名プロデューサーが数多くいた。そういった人材が不足していることも、現在の映画業界に活気が足りないと感じる理由の一つかもしれない。それだけプロデューサーの存在というのは大きなものなのだ。しかしその反面、それが問題を引き起こしてしまう場合もあるため、プロデューサーの在り方には見直しも必要な部分はある。

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「これはドキュメンタリー業界でも、特にテレビの話になりますが、プロデューサーとディレクターの力関係に差がありすぎるのではないかなと。そこはもう少し変えていったほうがいいと感じています。私自身は、女性や年下のスタッフから『違うんじゃないですか!』とかものすごい言われることもありますけどね(笑)。そこでムッとしたり凹んだりすることもありますが、有意義な意見をもらっているからこそ、いいものを一緒に作っていくことができるんだと思っています」

映画の現場では、労働条件の問題から女性が仕事を続けるのが難しいという声も上がっているが、ドキュメンタリー業界には女性が増えているという。

「昔は、単純に業界内に女性が少なかったというのもありますが、最近はかなり多くなっていると感じています。ただ、劇映画の現場だと関わる人数も多いので、どうしても大部分を占める男性に決定権が集まってしまうところはまだあるかもしれません。それに比べてドキュメンタリーの場合は、メインスタッフが4~5人くらいとかなりの少人数で動いていますし、極端に言えばカメラを持って1人で行くこともできるほど。そういう意味では、女性が仕事しやすい環境になっている部分はある気がします」

とはいえ、園子温監督のドキュメンタリーを手掛けたこともある立場から、女性たちによるMeToo運動に対して思うことはあると話す。

「劇映画とドキュメンタリー映画の世界はかなり違うので、正直に言うとそういうこと(※)が起きていることを知りませんでした。そんな寝ぼけたことを言って申し訳ないとは思いますが、実際に私が見聞きした範囲でハラスメントに該当する行為はありませんでした。ただ、だからといってハラスメントをしていないという証明にはなりませんので、園さんには誠実な対応を望みますし、もし性加害があったのなら、二度としないようにしてほしいと強く思います。いまはいろんなことが可視化されてきているので、これからよくなっていくのではないかと感じているところです」

※2022年頃に報じられた園子温監督が女優たちに性行為を強要していたという報道を指す。

今後のドキュメンタリー業界が発展していくうえで、大島監督が欠かせない存在となるのは間違いないだろう。最後に、今後目指しているものについても教えてもらった。

「自分の作品だけでなく、若い人たちの作品もプロデュースしていきたいと考えています。新しい才能をもっと世に出して、広げていけたらいいなと思っているので。観客を育てていかなければいけないところもありますが、作り手も含めてまずはドキュメンタリーの人口を増やしていきたいですね。競技人口が多いスポーツほどスターが出ると言われていますが、ドキュメンタリーはまだまだ人数が足りない状況。ただ、いまは機材の性能が上がったことで誰でも始められる強みもありますし、いろんな媒体でチャンスもあるので、若い世代と一緒にドキュメンタリー業界を幅広く盛り上げていけたらと思っています」(text:志村昌美/photo:泉健也)

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