原作と映像化された作品を、重箱の隅をつつくように細か〜く比較する【元ネタ比較】。今回は『オーバー・フェンス』を取り上げます。
【元ネタ比較】『オーバー・フェンス』前編
前2作が良作だった佐藤泰志原作映画に期待するも…
『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続き、佐藤泰志原作の「オーバー・フェンス」が映画化された。本作の原作も含めて5回芥川賞候補となるが、受賞を果たせぬまま1990年に享年41歳で自ら命を絶った佐藤泰志。昨今、彼が再評価されてきた立役者的な存在であり、この映画化三部作に携わる菅原和博氏に『そこのみにて光輝く』で取材したときに、「いつかは」と言っていた「オーバー・フェンス」の映画化が実現して感慨深い。
監督は『苦役列車』などの人気監督・山下敦弘、出演はオダギリジョー、蒼井優、松田翔太、と、どうしちゃったの?と驚くぐらいメジャー感があって豪華だ。菅原氏が語ってくれた、成功すれば次に繋がるという言葉を思い出す。佐藤泰志の故郷である函館を舞台にした映画化三部作の最終章である本作が、いったいどんな作品になるだろうと個人的にもとても楽しみにしていた。
佐藤泰志は作家活動に挫折しかけた際に、地元の函館に戻って職業訓練校に入学した経験があり、「オーバー・フェンス」の主人公も職業訓練校に通う青年だ。過去を抱えて故郷に帰ってきた主人公・白岩が、失業保険の延長目当てに職安で勧められるままに入った職業訓練校の建築科に通う日々と人間模様が描かれる。
職業訓練校に通っているのは未成年が大半だが、主人公も含めてさまざまな年齢層の生徒たちのなかには孫がいる年齢の者もおり、熱意をもって実習に取り組んでいる様子はあまりない。それに対して教官は空回り気味に厳しく、校内のソフトボール大会にも熱くなっている。白岩はそんな人生の足踏み時期のなかで、東京での生活のつまずきを引きずりながら、諦めと閉塞感とともに日々を過ごしていた。やがて、職業訓練校の仲間の代島の紹介で“さとし”という女性と出会い、白岩はほんの少し前向きな気持ちを持ち始める。
原作は佐藤泰志の小説にしては珍しく前向きな軽やかさが感じられる作品で、大きな事件もなければ起伏もほとんどない。でも、だからこそ作り手の腕の見せどころでもあるだろうし、こういったなんということはない空気を感じさせることこそ映画が得意とすることだと思う。(文:入江奈々/映画ライター)
『オーバー・フェンス』は9月17日より全国公開される。
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