【映画を聴く】ロマンポルノを聴き比べ!/後編
サティから「カノン」まで。
“マナー”を守りつつ、各監督が音楽でも個性を発揮
10年ほど前、マニアックな再発ものを中心にリリースするSOLID RECORDSというレーベルが『マル秘色情めす市場〜日活ロマンポルノの世界』というCDをリリースしたことがある。これは宇崎竜童や石川セリが劇中歌を歌い、ハルヲフォン(近田春夫)、石間秀樹(現・石間秀機)、篠原信彦、樋口康雄、沖至らが劇伴を担当した1974年のロマンポルノ作品のサウンドトラックで、フラワー・トラベリン・バンドのメンバーである石間らによるサイケデリック・ロックや、後年クラブ・シーンで再評価される樋口らのジャズ・アプローチが新鮮な名盤として現在も人気の高い作品だ。
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ロマンポルノにはこの作品のように音楽的にも現在まで語り継がれる作品が少なくないが、今回「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」として順次公開される5作品もそれぞれの物語に寄り添った劇伴がていねいに作られている。
行定勲監督の『ジムノペディに乱れる』は、そのタイトルからもわかるようにエリック・サティ作の有名なピアノ曲をモチーフとしており、主演の板尾創路のダメ人間ぶりを時に優しく包み込むように、時に嘲笑するように、劇中で何度も繰り返しこの曲が流れる。劇伴を手がけるのは熊谷陽子と浦山秀彦の2人からなる“めいな Co.”というユニットで、行定監督の『今度は愛妻家』のほか、板尾が監督した『板尾創路の脱獄王』にも楽曲を提供している。
白石和彌監督『牝猫たち』の音楽を担当するのは、星野源が在籍したSAKEROCKの元メンバーでもある野村卓史。現在はグッドラックヘイワというバンドで活動するいっぽうで『WOODJOB!』や『ヒメノアール』といった話題作のサントラも手がけており、本作にもキーボード奏者らしいピアノ独奏曲を中心とした劇伴を書いている。また、挿入歌として4人組バンドのミオヤマザキによる「Dawn of the Felines」が書き下ろされていることも話題だ。
園子温監督の『アンチポルノ』は、5作中ではもっとも作家性が強く、中盤にはいかにも園監督らしいサプライズが用意されていたりするが、音楽的にはロマンポルノのマナーを守った比較的オーソドックスなもの。秋月須清による静謐な劇伴のほか、パッヘルベルの「カノン」なども使われている。クラクラするような物語の展開の早さに反して音楽はどこまでも穏やかで、それがロマンポルノという枠にこの作品を何とか留まらせている。
中田秀夫監督『ホワイトリリー』の音楽は、レズビアンの世界を描いた物語に寄り添った、どこまでもメロウなもの。ストリングスや女性コーラスの使われた、ある意味では一番ロマンポルノらしい音楽だ。『アンチポルノ』と本作の音楽プロデュースを担当する菊地智敦は、もともとソニー系のレーベルで矢野顕子や篠原涼子を担当していた人で、最近は園監督の『地獄でなぜ悪い』や『TOKYO TRIBE』といった映画も担当している。そういう経緯があってか、本作の劇伴は『アンチポルノ』の秋月須清と同じプロダクションに所属する坂本秀一が担当。最近では山戸結希監督『溺れるナイフ』のほか、中田監督の前作である『鎌倉にて』も手がけている作曲家/編曲家だ。
最後に作られたのが1988年。今や見たことがないという人も多いであろう現代に、リブートという形で蘇った日活ロマンポルノ。芸術なのか、ワイセツなのかの判断は見る人それぞれだが、作品に注がれる熱量は“普通の映画”と何ら変わりがない。音楽面だけを切り取ってもそれがよくわかる、色とりどりの5作品だ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『ジムノペディに乱れる』は11月26日より、『風に濡れた女』は12月17日より公開中。『牝猫たち』は1月14日より、『アンチポルノ』は1月28日より、『ホワイトリリー』は2月11日より公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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