【地味系P子のピンクなお仕事 1】
「将来の事考えてるの?」
嫌悪感を滲ませ問うた元同僚
ここは東京・上野の不忍池ほとりにあるピンク映画館、上野オークラ劇場。いまやピンク映画製作の9割以上を占める映画会社、大蔵映画の直営映画館で、私、P子は働き始めて1年と少し。数年前に30歳を過ぎたアラサー女ですが、まだまだ修行の足りない、頼りないスタッフです。
転職前、在籍していた会社の同僚から「将来の事考えてるの?」と、心配というよりは嫌悪感を滲ませた表情で問われたことを今も憶えています。きっとピンク映画に対する世間のイメージは、大方良くないものなんでしょう。ところが、そんな忠告や助言を聞き流すかのように、私・P子はピンク映画館に転職してしまったのです。
アラサー・キャリアなし・貯金なしの独身女。一体どうしてこの職場で働くことにしたのか。周囲の人からもよく「何故?」と尋ねられます。私自身も、これまでピンク映画という名前は知っていたけれど、見たことは一度もありませんでした。にも関わらず、ハローワークで上野オークラ劇場の求人に目が留まったのは、映画製作業務も能力次第で携われると書かれていたのが気になったからです。ピンク映画どころか、私は映画業界にも縁もゆかりもありませんでした。ただ、元々映画が好きで、学生時代に映画会社に勤務したいな、とうっすら思っていたことはありました。学生映画を作っていた私の友人たちは、卒業後ほとんど映画業界へ旅立っていき、1人だけ異分野のOLになったのが寂しくもありました。
転職経験はあるけれど、アルバイトを含めても映画の仕事経験は一回もなし。あれから十数年経ち、当時のくすぶっていた気持ちが急に甦ってしまったのです。
よくいるんだよね。自分の年齢をわきまえず先の事考えないで、若い頃やりたかった事をやると言い出すイタイ奴−−。頭の中で、かろうじて冷静な自分が冷ややかな言葉を投げかけます。若いうちはやりたいことを仕事にできるけれど、この歳だと自分のスキルからできる仕事に限定するのが当たり前。一般事務しかやったことないんだから、贅沢言わず事務職を真面目に探そうよ。いつまでもふらふらする訳には行かないよP子。
自問自答が続き数日が経った後、どうせダメもとだ、と、なかば勢いで応募しました。
面接で初めて訪れた上野オークラ劇場は、きらびやかな女体のポスターで彩られた賑やかな劇場でした。まじまじとヌードの女性のポスターを見て心臓がバクバクしつつも、自分の知らなかった世界に入ろうとしている高揚感のほうが勝ってしまいました。
ピンク映画ってどんな映画なんだろう。昔懐かしのストーリーが多いのかな、アングラな感じなのかな……。劇場ロビーで面接の順番を待っていると、観客が場内への扉を開ける度に映画の喘ぎ声が漏れ聞こえてきました。でも、ロビーは至って他の映画館と同じ。よくある光景と、見たこともない映像がスクリーンに映し出される空間とが扉1枚隔てただけで存在している。そして、そんな境界に今、私が佇んでいる。なんとも不思議な感覚になりました。
面接では、声のよく通るスポーツマンタイプの支配人が丁寧に説明してくれました。映像の部署の社員さんたちはポスターもチラシ作りも全部手掛けていること、そういう部署の業務も手伝えるよ、と、自分次第で映画製作の一連の仕事が出来るという話を伺いました。
一般的に映画に関する仕事といっても、様々な業務があります。その中で、何の経歴もない自分が入り込める所があるのかわかりませんでした。一つの業務に特化せず、様々なことが出来る(かもしれない)この会社なら、アラサーの私でも何か挑戦できることがあるかもしれない。淡い希望が湧きました。
正直に言うと、自分の中にもピンク映画への偏見がまったくなかったわけではありません。でも、「ピンク映画も映画に変わりない!」と思って伺ったら、大手の映画と比べ、格段に自由度の高い作品を作り続けているとのこと。期待以上の答えに、面接だけでも来られてよかったなあ、と呑気な事を面接中にぽやんと思っていました。
数日後、運よく採用通知を貰えた私は、めでたく上野オークラ劇場のスタッフとして働き始めるのでした。
入社後の意外な出会い、ピンク映画館ならではの出来事、世間から偏見を受けやすいこの業界の実態……。一体どんな体験や驚きが待っていたのか。上野不忍池のほとり、ピンク映画館勤務の女性スタッフ・P子の体験談、次回から詳しくご紹介していきたいと思います。ご覧いただけると嬉しいです。
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