(…中編「さすが中村明日美子! 絶妙なバランス関係に唸る」より続く)
【元ネタ比較】『ダブルミンツ』後編
しらけることなくダークでアブナい世界を活写
熱狂的なファンに支持される中村明日美子原作によるBL漫画「ダブルミンツ」が実写映画化された。官能的で暴力的でいびつで危うい2人の男の関係が描かれる。
この独特の雰囲気や世界観は中村明日美子の絵によって醸し出されているところが大きい。
中村明日美子の絵は一般的な少女漫画や流麗なBL漫画とは違う、個性的な絵柄だ。フニャフニャッとした線で描かれる絵は、ファッションデザイナーが描くデザインのスケッチ画を彷彿とさせるし、曲線的でアールヌーヴォーの匂いも感じさせる。
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オシャレでしょ〜とドヤ顔で言われてるようで鼻につかなくもないが、この絵だからこそ出る雰囲気はやっぱり魅力的だ。この絵のキャラクターが動くからこそ目が離せなくなるし、この絵のキャラクターが話すからこそ引き込まれるというもの。これが実写になるってどうなの?と見る前は不安になった。
2人の間に流れる緊張感あふれる関係性を表現できているのがいい。暴力が介在しているからこそのエロティシズムも感じさせる。
こういったダークでアブナい世界は真剣にやれば真剣にやるほど滑稽に見えてしらける場合があるため、見る前は懸念していたが、そんな状態に陥ってはいない。男同士のキスシーンもドキドキと刺激的で色気を感じさせるシーンに仕上がっている。
監督は国際的な映画祭で好評を得た『下衆の愛』など、いびつでいてピュアな人間像を描くのを得意とする内田英治。容赦ない暴力描写も思い切りがよく、2人の愛憎に説得力を持たせることに成功している。
原作に惚れ込んだ内田監督は原作者の中村明日美子とやり取りして2年間かけて脚本を書き上げたのだとか。原作を尊重しつつ、今や名バイプレイヤーとなった高橋和也が相変わらずの巧演で魅せる刑事が、主人公たちにより深く関わるという、原作とは異なる脚色を加え、いい効果を出している。
闇社会の描き方も原作よりも妙にリアルで重厚で男性監督らしい男臭さがあり、ドラマを引き締めるのに一役買っている。
惜しむらくは2人の情事のシーンの描写か。大人の事情というものがあるのかもしれないが、そこも思い切って大胆に描いてくれたなら、原作のようにもっと作品として濃厚な色が出ただろうに、もったいない。それでも、従者・光夫が果汁を滴らせて桃を食べながら、ある映像を見つめるシーンは原作よりも官能的で出色のシーンで良かった。
ラストは原作のように2人の極限的な愛を感じ、切なくも清々しい余韻に浸ることができ、映画化の不安が払拭されたことに胸を撫で下ろした。キラキラと綺麗なBL作品とはまったく違う、独特の味わいを持った緊張感あるダークな本作。BL作品に抵抗感を持つ人にこそ、ぜひ見て欲しい。(文:矢野絢子/ライター)
『ダブルミンツ』は6月3日より全国公開される。
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