メリル・ストリープも弾劾! 加害者・被害者の対立軸に加え傍観者への批判も出たセクハラ騒動

セクハラを「知らなかった」と言い批判されたメリル・ストリープ
セクハラを「知らなかった」と言い批判されたメリル・ストリープ

…前編「2017年の映画界を振り返る/人種差別を新たな手法で描き、女性監督も活躍」より続く

【2017年の映画界を振り返る】後編
“#MeToo”運動は政界にも波及

リベラルな政治観が圧倒的多数のハリウッドは、民主党支持者が大半で、大統領選となると大物スターたちがこぞって支持する候補の応援に駆けつける。民主党候補だったヒラリー・クリントンも、レディー・ガガやマドンナなど女性セレブが中心になって支持を表明していたが、彼女やオバマ前大統領への多額の寄付や選挙資金集めに尽力していたのが、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインだ。

セクハラ隠蔽にスパイまで動員していたことが明らかに! ワインスタインに迫る捜査の手

通常なら毎年12月は、ワインスタインにとって年明けのアカデミー賞候補の発表に備えた最も多忙な時期だったはずだが、今年の年末、ハリウッドに彼の姿はない。10月、ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙とニューヨーカー誌にワインスタインが長年にわたって仕事で関わった女性たちに行ってきたセクシャル・ハラスメントを告発する記事が掲載されたのだ。被害に遭ったうえにキャリア妨害もされたアシュレイ・ジャッドやローズ・マッゴーワンらが実名で告発、彼女たちに続いてグウィネス・パルトロウやアンジェリーナ・ジョリーといったオスカー女優も名乗り出た。身体への接触や言葉での嫌がらせにとどまらず、レイプの事実まで発覚、アメリカやイギリスなど3都市で捜査が進められている。

ユダヤ系アメリカ人のワインスタインは、イスラエルの諜報機関モサドの元局員などを雇って被害者が告発をしないよう監視させたり、メディアや政界にまで及ぶ人脈を駆使して、自らの悪行が表沙汰にならないようにあらゆる手を尽くしていたことも、NYT紙が報じている。

ワインスタインが弟のボブと興したミラマックス社でフリーダ・カーロの伝記映画『フリーダ』を製作・主演を務めたサルマ・ハエックは、女優としてミラマックス製作の映画に出演していた時期から『フリーダ』製作・公開までにワインスタインから受けたハラスメントについてNYT紙に寄稿。性的要求を拒否したことから次々と難題を突きつけられ、その中には全裸での女性同士のセックスシーン撮影の要求や、作品の劇場公開拒否もあったという。最終的にアカデミー賞6部門にノミネートされ、2部門を受賞したが、ハエックは「喜びは感じなかった」と綴る。モンスター級のセクハラとパワーハラスメントが彼女に残した傷は大きい。

告発されたのはワインスタインだけではない。女優のアリッサ・ミラノの呼びかけで、「Me Too」というハッシュタグをつけて、性的嫌がらせや虐待の経験をSNSで発言する運動が広まった。

演技派俳優のケヴィン・スペイシーは、未成年へのわいせつ未遂が発覚し、主演していた人気シリーズ『ハウス・オブカード 野望の階段』をクビになり、公開直前だった映画『All the Money in the World(原題)』の出演シーンは全カットされてクリスファー・プラマーが代役を務めた。

また、撮影現場スタッフや舞台での共演女優から告発されたダスティン・ホフマンをはじめ、ベン・アフレック、ピクサー社COOでもあるジョン・ラセター監督、ブレット・ラトナー監督、駆け出しの女優たちを狙ったジェームス・トバック監督、コメディアンのルイス・C・K、TVシリーズ『ゴシップガール』のエド・ウェストウィック、アメリカを代表する朝の情報番組『Today』の司会者のマット・ロウアー、さらには、アメリカやイギリスで政治家が辞任するなど、波紋は大きく広がりを見せている。ワインスタインの告発記事が出る数日前に引退をほのめかしたジェームズ・ウッズは、9月に女優のアンバー・タンブリンから、当時16歳だった彼女へのセクハラ行為を暴露されていた。

公然の秘密だったワインスタインの傍若無人な振舞いについては、セス・マクファーレンが2013年、アカデミー賞ノミネーション発表時にほのめかしたことがある。助演女優賞候補5人の名前を読み上げた彼は「おめでとう。もうハーヴェイ・ワインスタインのことを好きなふりをしなくていいですよ」と言い、場内に微妙な笑いが起きたが、友人の女優から聞いた話からコメントしたマクファーレンやその場にいたワインスタイン本人をはじめ、笑った人々も、その実態を当時から知っていたのだ。

そのマクファーレンがクリエイター兼声優を務めていたアニメ『ファミリー・ガイ』には、全裸の男の子が「助けて! ケヴィン・スペイシーの地下室から逃げてきたんだ!」と叫ぶ場面もある。これが放送された2005年、コートニー・ラヴがレッドカーペット・インタビューで、女優を目指す若い女性へのアドバイスを求められ、「ハーヴェイ・ワインスタインにフォーシーズンズホテルのプライベートパーティに招待されても、行かないこと」とコメントした。ラヴはこの後、エージェントからワインスタインについて発言することを禁じられたという。

警告を発した者がいる一方、ワインスタインと懇意にしてきた大物スターの多くは「何も知らなかった」と言う。マット・デイモンは、親友ベン・アフレックと共同脚本でオスカーを受賞し主演も務めた『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』を世に出してくれた恩人ということもあってか、ワインスタイン擁護とも取れる発言をし、非難が殺到した。同じく、「全く知らなかった」と発言し、告発者の1人であるローズ・マッゴーワンにツイッターで「偽善者」と名指しで非難されたメリル・ストリープは「故意に黙っていたわけではない」などと反論。するとその翌日、ワインスタインとのツーショット写真に「彼女は知っていた(She Knew)」と書かれたポスターをロサンゼルス市内の各所に貼られる騒動も起きている。

来年1月7日(現地時間)のゴールデン・グローブ賞授賞式に、性的暴行や嫌がらせの被害者をサポートする意思表明として、ストリープをはじめ30人ほどの女優たちが黒いドレスを着て出席するという報道もあった。マッゴーワンはこれについても「あなたたちの沈黙が問題なのよ」「あなたの偽善を軽蔑する」と厳しく批判した。事態は加害者と被害者の間にとどまらず、傍観という形での加担を追及する様相。2018年以降も社会全体で真摯に向き合わなければならない問題だ。

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