今年、生誕115年となる名匠・小津安二郎監督の作品を、4Kデジタル修復版で特集上映する「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」(配給:松竹メディア事業部、KADOKAWA)。これを記念し、5月のカンヌ国際映画祭にて4Kデジタル修復版でワールドプレミア上映された『東京暮色』に出演する有馬稲子のトークショーが6月24日に角川シネマ新宿で行われた。
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『東京暮色』の4Kデジタル修復版を前日に見たという有馬は、まず「この有馬さんはいいですね」と自分のことを褒め、会場をドッと沸かせると、「演技をしていない。あの当時だからこその“清純さ”“純潔さ”という感じが自然と出ていた」と話し、「でも、あれだけ純粋だからこそ男に振り回されたり思わず妊娠してしまったんだろう」と自分の役を客観的に解説。「4K」についても「光の陰影に深みが出て、濃淡がはっきりとし、とっても綺麗でした。小津さんにも見せたら喜ぶね」と絶賛した。
有馬は「脇を固める人たちも含めて役者がみんないい」と小津監督のキャスティングのうまさも絶賛。「まず笠智衆さんのことは大好きで、あんなお父さんがいたらなとずっと思うくらい。高橋貞二ちゃんはのらくら、でたらめさのある芝居が本当にうまかった。いい加減な男をやらせるとピカイチであんな人が実際にいたんです」と笑いを誘うと、原節子については「当初はもっとたくさんのシーンに出ればいいのにと思っていたけど、改めて見ると隅々で活躍していたんです。深夜の警察でのシーン、コートを着てショールをしてマスクをした原さんがとっても綺麗、こんなに綺麗な人は見たことないと思うくらい素敵で4Kだとなおさら綺麗でした」と感動した様子。
さらに「杉村春子さんのおばちゃん役もとってもいい。おっちょこちょいなあの感じが本当にうまいんですね。山田五十鈴さんは、特にラストシーン、人を探している目がキョロキョロせずにジーッと見ている。その目がとても印象的。あのシーンはノーメイクで臨み、傷んだ肌も出した、その役者根性が本当にすごい」。そう共演者たちの演技に改めて感激しつつ「うまい人に囲まれていたから演技ができたんですね。当時、何も知らないことが生かされた。この映画が大好き。昔からある日本らしい家庭が笠智衆さんを中心にカチッとできている。小津さんの作る家族という名の建造物が大好きだから小津さんの作る映画が大好きなんです」と笑みをこぼした。
実は当時、小津監督が偉い人だってことは知らなかったという。「小津組の撮影が終わってから名匠だということを知ったから、次の『彼岸花』に出演した時は緊張で上がってしまったんです」と回想。「撮影現場で、17時頃になると小津さんは時計をチラチラ見出すんです。早くお酒を飲みたいんですね。そうすると『すき焼き食べる?』なんて誘ってもらって、よくご馳走になったんです」と何度も一緒にご飯を食べたことを思い出していた。
また、小津監督の演出については「テーブルの上に並べられた小道具の位置を全部直すんです、ローアングルからレンズをのぞき込んで『3cm大船へ、4cm鎌倉へ』と言って位置を完璧に直してから撮影に入った。小津さんの映画はとても絵画的に作っていたんですね」と話し、さらに、小津作品のセリフが短いことを指摘すると、「すごい難しい。『行くの』というセリフだけでも何度も言い直させられたんです。でも小津さんがお手本として言うのがものすごく上手くて、とても真似できなかったです」と明かし、会場からも「へー」という声が上がった。
有馬は鎌倉の小津監督の家にも遊びに行ったことがあるそうで「いつもチャコールグレーのスーツを着ている小津監督のことを『この服しか持っていないのかな』と思っていたら、遊びに行った時、押入れが開いていたから覗くとチャコールグレーのスーツがバーッと10着くらい並んでいたんです」と語り、会場を沸かした。
そして、「いつもキネマ旬報で1位とか2位を獲っていた小津監督作品だったんですが、この『東京暮色』は当時19位。小津監督は残念がっていたんですが、でも今年ベルリン映画祭で上映されてヴィム・ベンダース監督と坂本龍一さんがトークショーを開催するなど、今また再評価されているんです」と、この日のトークショーに一緒に登壇した映画評論家の樋口尚文氏から昨今の再評価について説明されると、有馬は「映画は白黒が好き、モノクロ映画特有の陰影や濃淡がいいんです。そう考えると小津さんというのはやっぱり大監督ですね」と称賛。「小津作品には2作品しか出ていないので、もうちょっと松竹に在籍していたら、ほかにも小津作品に出られたかもしれない」とちょっと後悔しつつも「本当にいい人、いい監督でした!」と話していた。
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