【週末シネマ】『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』
老ミュージシャンたちのパワフルさに圧倒される
キューバの老ミュージシャンたちによるバンドを追った1999年製作のドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の続編。「アディオス」と付いていることからもわかるように、ライブ活動に終止符を打つことを決めた彼らのフェアウェル・ツアーの様子と、ミュージシャンたちの知られざる過去にも迫る。
・偉大なる歌姫が語る「音楽こそ人生!」の思い/『ブエナ・ビスタ〜』オマーラ・ポルトゥオンド インタビュー
前作で監督を務めたヴィム・ヴェンダースは製作総指揮に回り、『ヴィック・ムニーズ ごみアートの奇跡』などのルーシー・ウォーカーが監督を務めた約18年ぶりの続編は、1997年に発表したアルバムとそれを受けてのドキュメンタリー映画の世界的ヒットで一躍時の人となったベテラン歌手やミュージシャンたちの現在、前作でカットされた秘蔵映像などどから、彼らの人となりに迫る。インタビューで語られる幼少期や不遇時代の思い出に、若き日の活躍の音源や映像も盛り込まれ、20世紀キューバの音楽を通して、歴史や文化にふれる内容となっている。
前作の時点で、彼らの平均年齢は70歳を超えていたが、革命やキューバ危機の時代を生き抜いてきたその風貌は味がある。バンド参加当時、すでに90代を迎えていたコンパイ・セグンド、美声の持ち主ながらチャンスに恵まれず、実力が正当に評価されたのは「ブエナ・ビスタ〜」に参加した70歳の時だったイブライム・フェレールなど、すでにこの世を去ったメンバーたちが生前に残した言葉、歌声に心を揺さぶられる。そしてバンドの歌姫であるオマーラ・ポルトゥオンドの変わらぬパワフルな声と存在感に圧倒される。
新旧のメンバーで構成されるバンドは2016年のフェアウェル・ツアーを持ってライブ活動を終える決意をし、「アディオス・ツアー」と名づけたワールドツアーへと旅立つ。そのクライマックスが、アメリカのホワイトハウスで行われた特別なコンサートだ。
彼らをホワイトハウスに迎えたのはオバマ大統領で、50年以上断絶していたアメリカとキューバの国交正常化に尽力したのもこの大統領だ。感慨に満ちた表情をみせるキューバのミュージシャンたちに尊敬をもって接する姿が印象的だったが、時は変わり、昨年から新しい大統領を迎えたアメリカとキューバの関係は不安定な要素も多い。その急激な変化を目の当たりすると、数十年もの時間をかけてミュージシャンたちが紡いできた時間と、ほんの一瞬で物事がガラリと変わる21世紀という2つの時間が存在するかのようでもある。
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』は7月20日より全国順次公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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