(…前編「頼りないパパの胸がチクチク(汗)…“子育てあるある”が生々しすぎる!」より続く)
【映画を聴く】『タリーと私の秘密の時間』後編
かつてないリフレッシュ・ムービー!
本作でまず印象に残る劇中歌といえば、「You Only Live Twice」だ。1967年の映画『007は二度死ぬ』の主題歌としてナンシー・シナトラが歌った美しい曲で、ここでは歌手で女優のケイトリン・デヴァーが歌ったバージョンが使われている。「You Only Live Twice」というのは「You Only Live Once(人生は一度しかない)」という慣用句的なフレーズをもじった言葉。直訳すれば「人生は二度しかない」となり、本作における「並行世界」の暗喩となっている。
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そしてマーロが娘のサラと一緒にカラオケで歌う「Call Me Maybe」。シンガー・ソングライターのカーリー・レイ・ジェプセンによる、2011年のヒット曲である。子育てに疲れきったマーロが、タリーの出現によって生き生きとした表情を取り戻していく。そんなシーンに「And Now You’re in My Way(そしてあなたが私の前に現れたの)」と歌われるこの楽曲が選ばれたことは偶然ではないだろう。
もうひとつ、監督のジェイソン・ライトマンと脚本のディアブロ・コディが本作中で使うことにこだわった楽曲が、ジェイホークスの「Blue」だ。ライトマン監督とコディは『JUNO/ジュノ』と『ヤング≒アダルト』でもタッグをタッグを組んでおり、両作でもこの楽曲の使用を試みたがうまくいかず、本作でようやく「完璧にはまった」という。
タリーを心から必要とするマーロの強がりなのか? それとも驚くべき結末を「神の視点」で眺めるもうひとりのマーロの素直な気持ちなのか?「Never thought that I’d miss you(あなたを恋しいと思ったことなんてない)」という歌詞を持つこの曲が二度にわたって劇中で使われる理由は、解釈の分かれるところだろう。
「サプライズ」と「ミステリアス」のツイストを加えることで、従来にないリフレッシュ・ムービーに仕上がっている『タリーと私の秘密の時間』。見方によっては『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『アトミック・ブロンド』よりも身体を張っているシャーリーズ・セロンの演技に注目が集まること必至だが、その雄弁な音楽演出にも気持ちを向けることで、鑑賞後の余韻はいっそう深まるはずだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
『タリーと私の秘密の時間』は8月17日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。
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