【週末シネマ】『おとなの恋は、まわり道』
85分間、男女2人がずっと話している。おしゃべりに花が咲くというのではなく、相手の余計な一言にカチンときて言い返す。出会ったばかりで瞬時に“喧嘩するほど仲がいい”状態になる中年の独身2人をウィノナ・ライダーとキアヌ・リーヴスが演じる『おとなの恋は、まわり道』は、王道の展開からの脱線を繰り返しながらも軌道は外さずに進む、皮肉屋のロマンティック・コメディだ。
・早熟な天才女優から一転、万引き事件を経て異才を放つ存在に/ウィノナ・ライダー
カリフォルニアのリゾートで行われる結婚式に招かれたリンジー(ライダー)が往きの飛行機で一緒になったのは、花婿の異父兄弟のフランク(リーヴス)。面識はなかった2人だが、フランクは弟の元カノとしてリンジーのことを、リンジーも散々悪口を聞かされた“元カレの兄弟”としてフランクのことを知っていた。第一印象からして最悪な者同士なのに、現地で他につるむ友人もなく、2人は行動を共にすることに。理屈っぽいリンジーもポジティブとは言い難いが、輪をかけてシニカルかつ悲観的で文句が多いのがフランク。リハーサルディナーでも、結婚式当日も、どちらかが口を開けば、一方がまぜっ返す。
いがみ合いが恋に転じていくのはロマンティック・コメディの定番だが、リンジーとフランクの会話はとにかく毒が強い。そのやりとりがちょっとしつこくなりそうな時もあるが、その応酬がこじらせ気味の中年男女らしいリアリティにもなっている。
あの頃演じた若者がそのまま歳を重ねた姿を想像させるのが、『おとなの恋は、まわり道』の主人公2人であり、1992年の『ドラキュラ』で夫婦を演じて以来、4作目となる共演でライダーとリーヴスの息はぴったり合っている。せっかくの美男美女なのに、こんなみっともないところを見せるとは、と失笑を誘う場面も多々あるが、それこそまさに“この2人だからこそ”という可笑しさで、全編を通してセリフがあるのはリンジーとフランクだけ、というヴィクター・レヴィン監督の演出は成功している。
互いを嫌い合うというネガティブな点で気が合う2人。ロマンスを信じない男女のキツい冗談と悪口三昧、突拍子もない行動は、見ていてちょっと引いてしまうが、もう若くない者なら誰しも、いくばくかの共感を抱くに違いない、少しくたびれた大人としての親近感がそこにある。(文:冨永由紀/映画ライター)
『おとなの恋は、まわり道』は12月7日より公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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