ミニマル・ミュージックで通した久石譲の覚悟
【映画を聴く】
「久石さん やりましたね! 全部ミニマルで通すなんて ありがとう みやざき」
『君たちはどう生きるか サウンドトラック』のCDのブックレットには、宮﨑駿監督が久石譲に寄せた手書きのメッセージが掲載されている。“ミニマル”というのは、反復を基調として音の変化を最小限に抑えた音楽、“ミニマル・ミュージック”のこと。繰り返しの中に微妙な変化が生じることで、時間の経過や感情の変化を表現するのが特徴だ。
・【日本の映画音楽家】『風の谷のナウシカ』が原点、ジブリ作品に欠かせない久石譲の音楽
ジブリ映画の豊かな抑揚感や親しみやすいメロディで知られる久石譲は、もともと国立音楽大学作曲科でミニマル・ミュージックを学んだ現代音楽畑出身の人である。『君たちはどう生きるか』の音楽は、その久石譲がこれまでのジブリ映画のメロディ志向とは異なる、ミニマル・ミュージックのアプローチで取り組んだものだ。従来のジブリ作品とはまるで様子が違い、親しみやすいメロディはほとんど聴くことができない。ここへ来て自身のルーツであるミニマル・ミュージックの引き出しを開けたことに、久石譲の強い覚悟がうかがえる。
「Ask me why」も。宮﨑駿の誕生日に曲を贈り続ける久石譲
1984年の『風の谷のナウシカ』から数えて、今年で40年。宮﨑駿監督と久石譲の関係性は、日本の映画界だけでなく世界の映画界を見渡しても稀有なものだ。スタジオジブリが刊行している小冊子『熱風』の2023年10月号に掲載されたインタビューの中で久石譲本人も「(ひとりの監督の作品をこれだけ長く担当し続けている例は、)スピルバーグとジョン・ウィリアムズぐらいしかいないんじゃないかな」と語っている。
『君たちはどう生きるか』の音楽で、まず耳に残るのが「Ask me why」という曲。オープニングで流れるだけでなく、主人公の眞人が、崩れ落ちた本の山から亡き母の筆跡を見つけて吉野源三郎の本『君たちはどう生きるか』を手に取る場面で使われる。仮編集でこのシーンを見た宮﨑監督は涙を流していたという。
久石譲は毎年1月5日の宮﨑駿監督の誕生日に監督のアトリエに赴き、曲をプレゼントするのが恒例になっていて、先のインタビューでもこれが「大切なルーティン」だと語っている。この「Ask me why」は2022年の1月5日に贈られた曲で、例年とは違って宮﨑監督が久石の事務所を訪れて聴いたのだとか。このときの久石はまだ『君たちはどう生きるか』の絵コンテや映像をまったく見ていなかったが、この曲を聴いて感激した宮﨑監督はすでに「これってテーマだよね」と話していたという。
40年にわたる集大成か新たな第一歩か
宮﨑監督は本作のサウンドトラックについて、曲調だけではなく、どのシーンに音楽を入れるかまで久石に一任したそうで、実際に宮﨑監督から修正の要望があったのは1箇所だけだったそうだ。それが、眞人の前に青サギが登場する序盤のシーン。当初、久石は「少し派手目の音楽をつけていた」というが、青サギをもっとさりげない存在にしたいという監督の意向を反映して、例のピアノのロングトーンに落ち着いたという。これほど“響き”に寄ったジブリ作品の音楽は、過去にほとんど類を見ない。
結果的に『君たちはどう生きるか』に使われている音楽の多くは、久石譲が宮﨑駿監督に毎年プレゼントしてきた楽曲が多く含まれているそうだ。40年にわたる二人の交流の“集大成”なのか、はたまた“新たな第一歩”なのか。ファンとしては、両者のタッグが再び実現することを期待するばかりだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
『君たちはどう生きるか』は、全国公開中。
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