(…前編「いきなり1億4千万超の契約金! 無名の存在から100万ヒットメーカーへのサクセスストーリー」より続く)
【映画を聴く】『フィッシャーマンズ・ソング〜』後編
実在のグループ、フィッシャーマンズ・フレンズのサクセスストーリーをいくらかの脚色を加えつつ映画化した『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』は、コーンウォールの漁師たちとロンドンの音楽業界人のカルチャーギャップが縦軸に、仕事一筋で生きてきた敏腕マネージャーの恋路が横軸に据えられている。
レコード会社の上司や仲間と連れ立ってロンドンからコーンウォールに遊びに来たダニーは、港で歌う漁師たちを指差して「あいつらと契約しろ」と言う上司の悪い冗談を真に受け、彼らと交渉を始める。最初は仕事と割り切っていたダニーだが、すぐに彼らの音楽に本気で惹かれるようになり、メジャーデビューになど興味のない彼らと最初から契約する気のない上司の板挟みになりながらも、その音楽を世界に知らしめるべく奔走する。随所に散りばめられたコーニッシュ(コーンウォールの人々)とロンドンっ子の価値観の違いを示すエピソードは、すべてが見る者への「本当の豊かさとは何か?」という問いかけになっている。
一方でダニーは、フィッシャーマンズ・フレンズの中心メンバーであるジムの娘、オーウェンに恋愛感情を抱くようになる。コーンウォールのポート・アイザックでB&Bを営むシングルマザーのオーウェンは「音楽はアルバム単位で聴くもの。1曲ごとにダウンロードなんてもってのほか」という熱心かつストイックなポピュラー音楽ファン。デモテープの録音場所を探すダニーやメンバーに響きの美しい教会の聖堂をすすめるなど、少なくない音楽的なインスピレーションを与える。
日本ではそれほど広く知られる存在ではないが、実際のフィッシャーマンズ・フレンズは現在も元気に活動を続けている。2013年と14年に相次いで2人のメンバーを失いながらもイギリス各地の大型フェスに参加したり、地元であるポート・アイザックの海岸で定期的にチャリティーライヴを開催したりしながら音楽的にも進化を続け、コンスタントにアルバムもリリースしている。本作を見終えたあとに彼らのアルバムを聴けば、イギリスの舟唄がより身近に感じられるようになるかもしれない。
(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。
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